レディオヘッド 《クリープ》Cover ft. ヘンリー・ラインハート 絶望的な《自己否定感》の泥沼の中でさえ人知れず咲く小さな花もある。

クリープ

YouTubeを拠点に活動する音楽グループ《ポストモダン・ジュークボックス》で、レディオヘッド《クリープ》をカヴァーした歌姫ヘイリー・ラインハート。 美しくジャズ・アレンジされ生まれ変わった名曲《クリープ》は、オリジナルを凌駕するほどの素晴らしさ!

エンターテーメント公演のほとんどが中止を余儀なくされ、自宅で映画、コンサートの映像や、YouTubeを観てお茶を濁すだけの生活だった僕たちは、ライヴコンサートや演劇、スポーツ観戦や旅行など、様々な娯楽を再び楽しめる喜びに、久しぶりの《解放感》を感じずにはおれません。

長期にわたった《緊急事態宣言》もやっと解除され、街にも人々が溢れ出し歓楽街も賑わいを取り戻しつつある反面、リモートワークから学校や会社の現場への復帰に心を重くしている人達も少なからずいるはず。 

組織の中では異常な違和感を感じながら人生を過ごしてきた僕のような社会不適合者の人達にとって緊急事態宣言》中の生活は、ある意味過ごしやすい期間であったのかもしれません。

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緊急事態宣言》中の生活で積もり積もった《閉塞感》は、人々に排他的な感情を募らせ、ますます好戦的で不寛容の世の中になっているように思えます。

平成から令和にかけてジャンルを問わず、たった一度の失敗や失態で暗い底なし沼に沈め、浮かび上がることを許さない社会的風潮は加速度的に強まり、絶望的な《自己否定感》の泥沼であえいでいる社会不適合者の人々は、何をよすがに生きて行けばよいのか…。

若くして一度《自己否定感》の泥沼に滑り落ちてしまうと自力で生還することは至難の業。 
身も蓋もないことを言ってしまうと《自己否定感》は、自身の自我意識の高さが大きな原因であり、自我意識が薄れ、比較競争のサイクルから逸脱しつつある僕ら還暦すぎのジジィからすれば《自己否定感》の呪縛から少しづつ解放されて行く感覚を感じてゆくものなのですが、思春期から20代に至る若者の苦悩は生死にかかわる問題なのです。

その《自己否定感》の泥沼であえいでいる若者が、救いようのない暗黒の闇から片想いの彼女に向けて歌った魂の嗚咽の歌が、レディオヘッド《クリープ》

先ずは《ポストモダン・ジュークボックス》《クリープ》をカヴァーしたヘイリー・ラインハートのボーカルをお聴きください。

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Radiohead -《Creep》

When you were here before
Couldn’t look you in the eye
You’re just like an angel
Your skin makes me cry
You float like a feather
In a beautiful world
And I wish I was special
You’re so fuckin’ special

But I’m a creep, I’m a weirdo.
What the hell am I doing here?
I don’t belong here

I don’t care if it hurts
I want to have control
I want a perfect body
I want a perfect soul
I want you to notice
When I’m not around
You’re so fuckin’ special
I wish I was special

But I’m a creep, I’m a weirdo.
What the hell am I doing here?
I don’t belong here

She’s running out again,
She’s running out
She’s run run run run

Whatever makes you happy
Whatever you want
You’re so fuckin’ special
I wish I was special

But I’m a creep, I’m a weirdo,
What the hell am I doing here?
I don’t belong here
I don’t belong here

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あの頃、すぐそばに君がいたのに
その瞳を僕は見つめることさえ出来なかった
そう、君は天使のようで
その儚げな素肌は、涙が出るほどに…

君は羽のようにこの美しい世界を舞う
僕も特別でいたかった…
君は信じられないほど特別な存在だったから

でも僕はウジ虫だ
僕は気持ちの悪い奴…
どうしたらいいのかわからない
僕の居場所はここじゃないのに…

どんなに傷ついたって構わない
僕は僕でありたい
僕は完璧な身体でありたい
僕は完璧な魂でありたい

君に気付いてほしい
僕が近くにいないときだって
君は本当に特別なんだ
僕もそうでありたかった…

でも僕はウジ虫だ
僕は気持ちの悪い奴…
どうしたらいいのかわからない
僕の居場所はここじゃないのに…

彼女がまたどこかへ行ってしまう
どこかへ消えてゆく…
消えてゆく、消えてゆく、消えてゆく…

君の幸せが何であれ
君の希望が何であれ
君は信じられないほどに特別なんだ
僕も特別でいたかった…

でも僕はウジ虫だ
僕は気持ちの悪い奴…
どうしたらいいのかわからない
僕の居場所はここじゃないのに…
僕の居場所はここじゃないのに…

からす


大ヒットしたオリジナルのレディオヘッド《クリープ》も繊細かつワイルドなロックで素晴らしいのですが、僕のおすすめはYouTubeで活躍する音楽集団《ポストモダン・ジュークボックス》のジャズアレンジでカヴァーしたヘイリー・ラインハートのボーカルヴァージョン!

音楽集団《ポストモダン・ジュークボックス》がカヴァーする様々なスタンダード曲はどれも最高に素晴らしく、ここ7~8年、聴きまくっているのですが、その中の最高傑作がこれ。 再生回数も一億回を超えるバズりよう! 僕ももう何百回、何千回と聴いているのですが、いまだに飽きることなく聴き続けておるのです。
 
原曲の荒々しく突き刺さるような魅力は薄いのですが、ジャズアレンジが素晴らしく、せつなすぎるピアノの音色とヘイリー・ラインハートの表現力豊かなハスキーなヴォーカルは、涙なくしては聴けません! 上記の和訳は、色々な方の和訳とオリジナルの英語の歌詞を見比べながら、女性歌手ヘイリー・ラインハートの歌声に響くように、さらに僕がこのように聴きたいと勝手に和訳した歌詞を載せております。

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どうですか皆さん! 太宰治も真っ青の絶望的な《自己否定感》! もし、この重たすぎる想いを直接告白されたら、世の女性のほとんどがドン引きしてしまいそうな女々しすぎるポエム。 しかし思春期の男の子の誰もが、手の届きそうにない片想いの彼女に対して少なからず抱く感情ではないでしょうか? 

失恋に限らず、人生を生き抜く中で何度か訪れるであろう絶望的な《自己否定感》。 しかしそのような時にこそ、繊細で儚い、名もなき一輪の芸術の花が咲くこともあるのです。

至福感に満ちた芸術も素晴らしいのですが、この歌のように絶望の暗闇に煌めく儚き芸術も同等に価値のあるものだ。と、僕は思いたい。 《僕の居場所はここじゃないのに…》と感じている世間にそぐえない人達や、精神的に肉体的に様々なハンディーを背負った人達に、エンターテーメントや芸術の世界の中には必ず《僕の居場所》は存在するのです。と、僕は思いたい。

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この曲を聴けば聴くほどに、絶望的な《自己否定感》の果てに見えてくる希望の《自己肯定感》の一条の光は幻なのか? その幻を信じる想念が物語を編み、その物語が人生を創造してゆくのだ。と、僕は思いたい。



《宇宙(人生)は物語で出来ている》

おしまい