元祖シンガーソングライター・荒木一郎。デビュー当時から一貫した あのやさぐれ感は、やはりただ者ではなかった。

荒木一郎

もはや名前を言っても誰もわからなくなってしまった、荒木一郎。同世代の加山雄三が太陽とするなら、荒木一郎は銀色に輝く月として、今も夜空を照らしています。

夜ごはんを食べ終わり母親に「食べてすぐ寝たら、牛になるよ!」と怒られながらゴロゴロ寝そべっていたら、テレビから荒木一郎『今夜は踊ろう』が流れてきます。 当時小学生低学年だった僕の耳には新鮮な、エレキギターの軽快なイントロが楽しく、やる気があるのか無いのかわからない微妙な感じのボーカルがなぜか心地よく響きます。

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『空に星があるように』で、既に荒木一郎は知ってはいたのですが、聴いた瞬間嬉しくなって踊りたくなるようなロカビリー調のノリの良いこの曲は、一発で気に入り、英語の歌詞の部分をまったく意味もわからないまま丸暗記し、友達に自慢げに歌っていた事を思い出します。

日本のロカビリー全盛期、ほとんどの歌手が洋楽のカバーソングを歌っていた時代、初めてロックンロールを自作自演でやった日本のミュージシャンの一人です。加山雄三もその一人ですが、こちらは映画「若大将シリーズ」の大スターで、ビジュ アルも太陽の様に明るく、メジャー街道まっしぐらの人でしたので、当時から比ぶべくもありませんでした。

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もともとが文学座の俳優出身で、荒木一郎自身も役者の仕事も数多くこなしています。しかしここでも根っからのマイナー 気質で、脇役やちょい役なども好んで出演し、タレントとしてのステータスにはあまり興味がなかったようです。

荒木一郎の曲や歌詩は、明るい曲でもどこか悲しげで、切なくて、泣きそうになる感じが大好きで、いまだに当時の感覚を忘れません。

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高校時、ダウンタウンブギウギバンド宇崎竜童の曲が好きになった頃、何故か荒木一郎を思い出し、あらためてベストアルバムを購入し聴き直してみた所、やはりこの人はパラノイア気味(ゴメンナサイ)のロマンチストで、天才的な才能の持ち主だと再認識したことを覚えています。

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『空に星があるように』『今夜は踊ろう』『いとしのマックス』『君に捧げるほろ苦いブルース』『ジャニスを聴きながら 』など、たくさんのヒット曲がありますが、他にも隠れた名曲は多いです(ラブソングが素晴らしい)。 『空に星があるように』は、BEGINをはじめ色々な人がカバーしているので、一番知られている曲なのでしょう。

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シンガーソングライターや俳優の他にも小説も執筆したり、マジック評論家の肩書き等もあり、胡散臭さ満載ですね。さらに極めつけは、アムウェイのディストリビューターとして、その会社の広告塔までやっているそうです。いやー、期待を裏切る事無く何時までも、やさぐれ感満載です。

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その時々に興味のある事を、世間体や統合性などおかまいなしでやっていける、エネルギーと自由さは、尊敬に値します。 だけどもう一度だけ音楽に戻っていただき、今の荒木一郎が歌う新しいラブソングを聴かせて頂きたいものですね。

昭和シンガーソングライターの草分け的存在、荒木一郎。平成の現代、今一度蘇れ!

おしまい