沢田研二LIVE《まだまだ一生懸命》inさいたまスーパーアリーナ 枯れゆくジュリーの潔さと美しさ。

沢田研二LIVE《まだまだ一生懸命》

《華麗なるジュリー》から《加齢なるジュリー》へ。齢75のジュリーが魅せる新たなる美意識。 ナチュラルに老いることをエンターテーメントとして昇華させた潔さと美しさ。その大いなる覚悟に乾杯!

沢田研二の《まだまだ一生懸命》な実像を観て、自堕落な生活を送り続けている我が身を恥じた、庭の隅の紫陽花の色鮮やかな梅雨の夜(泣)。

今回のジュリーのコンサートは、WOWOWオンデマンドでの鑑賞。2018年ドタキャン騒動の舞台さいたまスーパーアリーナのステージに《情熱の赤旗》を堂々と掲げてのリベンジライヴ。なんと二万人を超える観客動員(有言実行)をはたし、凄まじい熱気の中、コンサートの火ぶたが切られます。


ライブは三部構成となっておりました。


《第一部》ザ・タイガースメドレー
オープニングは、サリー、タロー、ピーのタイガースメンバーを従えて、トラの着ぐるみに身を包んだジュリーが熱唱する《ザ・タイガースヒット曲メドレー》

サポートメンバーは入っているものの、オリジナルメンバーが演奏すると当時の気配や匂いが漂ってきます。タローのギターソロ、ピーの軽く乾いたドラム音、サリーのヘフナーのバイオリン・ベースの音色。いやー皆さんお元気で何より。だけど《花の首飾り》はジュリーが歌っておりました(トッポーーーーーッ、もう良いジジィなんだから意地はらんとみんなと仲良くしようよーーっ!) 
途中、タイガースのデビューに至るまでのエピソードトークが面白かったのですが、なんぼなんでも長い!長すぎる! 調べるとなんと26分‼ さだまさしも真っ青の長尺トーク!


《休憩》 
ここで流されたBGMが、《太陽にほえろ!メインテーマ》《マカロニ刑事のテーマ》《傷だらけの天使オープニングテーマ》などの井上堯之バンドの名曲の数々。井上堯之ショーケンへの追悼の意が込められており、同時代を生きた僕達世代には胸にグッと来るものがありました。


《第二部》往年のヒット曲から今に至るまでのワンマンライヴ
ジュリー全盛期のヒット曲から、今回のライブツアーのコンセプトソング《LUCKY/一生懸命》や昨年公開された映画《土を喰らう十二ヵ月》のエンディングテーマ《いつか君は》に至るまで全14曲をノンストップで熱唱! 

衣装は至ってシンプルなライトグレーのスーツ。長髪の白髪を後ろで束ね、白髪の口髭、あご髭を生やした正味75才の老人ジュリー。(何故かカッコいい!)
終盤、束ねた髪がほどけ白髪の長髪を振り乱しながらロックンロール《愛まで待てない》を歌い狂う沢田研二。そしてそのままバラード《いつか君は》を熱唱。このとき、映画《土を喰らう十二ヵ月》で見た人間・沢田研二の痺れるような凄みを感じたのは僕だけでしょうか?


バラード《いつか君は》の歌詞は、聴くたびに心のひだに沁み込みます。


月明り こぼれてさざ波
君の寝顔に 寄せて返す
こわれものみたいだ
世界は


かすかな呼吸で
動いていく
いつか君は
いなくなってしまうね


いいよ
こんなに愛せたから
すごしたそばから
過去に変わる


一瞬ごとを 悔やまぬよう
永遠なんて ないことを
許せるつよさが
欲しいけど


いつか君は
そっとさよなら言うよ
いいよ
こんなに愛せたから
いいよ


祈るのは君のすべて
いいよ あとは波音だけ


アンコールで再登場したジュリーは、何故か博多山笠・中州流の長法被を羽織っておりました。
そして音楽劇「大悪名」出演メンバーに囲まれ、合いの手を受けての河内音頭熱唱。


《第三部》再びタイガースのメンバーが加わり、当時のGSサウンドのベースとなったローリングストーンズなどのカバー曲を演奏。
最後の曲はタイガース時代の名曲《ラヴ・ラヴ・ラヴ 》。Lの指文字を掲げ会場全員で熱唱!

大円団でコンサートは幕を閉じます。


今回のコンサートツアー、僕は沢田研二のさらなる新境地を魅せてもらったように思いました。
《加齢なるジュリー》は、華麗なる時代のヒット曲を全力で歌い上げます。さすがに高音の伸びはなくなり、時々に声のカスレは目立つものの、そのビジュアル、歌声のすべてを晒し、今現在の《一生懸命》をパフォーマンスするのです。
全盛期には、信じられないほどに美しい自身の容姿をベースに、楽曲ごとにさまざまな虚像を作り続けた稀代のエンターテナー・ジュリー。しかしながら齢を重ねるごとにその虚像を自ら剥ぎとり、そして今、一切の虚飾を排除した齢75のナチュラルな沢田研二を演出。 そう、虚飾をまとった往年のジュリーが一流の演出だったなら、虚飾を剥ぎとった齢75のジュリーもまた一流の演出なのではないでしょうか?

昨年、映画《土を喰らう十二ヵ月》で主人公ツトムを演じた剝き出しの沢田研二。その時の沢田研二がそのまんまステージに立ち、若き日のジュリーを全力で歌う。全盛期のジュリーを見続けてきたファンはその時代の映像、歌声を脳内再生しながら、今回の剝き出しの、ありのままの沢田研二を観ていたはず。


先日観た映画《怪物》で小学校の校長先生を演じたジュリーの妻、田中裕子。この人もナチュラルに齢を重ねた末の女優の深み、凄みを醸していました。

沢田研二田中裕子。年齢に逆らわずありのままの自分を全肯定するその生き様は、僕達に自然に老いることの美しさを教えてくれ、今を生き抜く力を与えてくれます。


普通、年老いたスターはさまざまな装飾を施してその加齢を覆い隠す努力をするもの。一流のパフォーマーとしてはそれはいたって正しい態度なのでしょう。しかしながら沢田研二はあえて、その加齢を武器にしてジュリーを演じているように僕には見えたのです。もっと言えば老齢をことさら強調するかのような言動が随所に見受けられました。本当の美しさとはその時々によって、また観る者の心の在り方によって様々に変化するもの。
《華麗なるジュリー》《加齢なるジュリー》。その矛盾する対極の二つの美を同じように美しいと感じ得る審美眼を得た時、僕達は《永遠の謎・スター沢田研二とは何か?》の答えを見つけることが出来るのかもしれません。


因縁のさいたまスーパーアリーナのステージに《情熱の赤旗》を堂々と掲げ、二万人の観客の前で約3時間15分、全27曲を歌いきったジュリー。これからもまだまだ一生懸命! 


《華麗なる加齢》 いざ進め!銀齢のロックンロールスーパースター!


老後の楽しみ我らの楽しみLIVE!
もうちょっとだけど未来を信じるLIVE!
最低な奴も最高な奴もLIVE!
血が騒ぐROCK MUSIC!


約半年ぶりのブログ、最後までお付き合いいただきまして有難うございました。

おしまい