史上最高得点を叩き出し、激戦の《キングオブコント2021》を勝ち抜いた生粋のコント師《空気階段》。その世界観は異質な他者への思いやりと寛容性。マイノリティーをイジリながらも、広く俯瞰したその優しさはどこから来るのか?
前回、《ザ・マミィ》に入れ込みすぎて異常に長いブログとなってしまい、《キングオブコント2021》を最後まで語ることが出来なかったので、今回は、その続きです。お時間のある方はお付き合いの程よろしくお願いいたします。
強烈な印象と高得点を残した《ザ・マミィ》のコントを終えて、残すところ後二組。
三年連続決勝進出。最高のネタを引っ提げ、満を持しての登場は令和のコント職人《空気階段》!!
この日のために練り上げた《空気階段》にしか演じ得ない鉄板ネタ「火事」。 もう、この設定を見ただけで「空気階段しか勝たん」と思ってしまったのは僕だけではないでしょう。 僕が勝手に決めた今回の《キングオブコント》のテーマは、
《異質な他者への疎外感から受容感》
だったのですが、このコントは心の中に隠された《異質な他者》をさらけだされた、世間的には常識人と認識されている二人のお堅い職業の人物が登場するスラップスティック・コメディ。
非常ベルが鳴り響く中、板付きで登場したのは、椅子で後ろ手に縛られ、 黒のアイマスク、 素っ裸に白ブリーフ一枚のガリガリの男(かたまり)。
「女王様ーーーっ! 今の、何の音なんですかぁーーっ、女王様ーーーっ」
と叫ぶ ガリガリの男 (かたまり)のセリフで、場所は秘密のSMクラブとわかります。と、いきなり上手より飛び込んできたのは後ろ手に手錠をかけられ顔にストッキングを被せられた、これまた素っ裸に白ブリーフ一枚の見苦しいほどのデブ(もぐら)!
ビル内に火事が発生したので避難しろと叫ぶ デブ(もぐら) 。 黒のアイマスクを外され目に飛び込んできたのは素っ裸に白ブリーフ、顔にはストッキングを被らされた 見苦しいデブ(もぐら) !
「だれ――――――――ッ!!」
と、ビックリして大声で叫ぶガリガリ(かたまり)。 救出すべく ガリガリ(かたまり) の後ろ手に縛られたロープを外している最中、デブ(もぐら) は、自分は消防士だと身分をあかします。 この時点ですべての状況を観客は理解。 二人で避難している最中、社交ダンス教室に逃げ遅れた一般人を助けるからと デブ(もぐら) は ガリガリ(かたまり) に避難するようさとすのですが救助を手伝うと聞きません。なぜなら実は ガリガリ(かたまり) も警察官だったのです!
秘密裏にSMクラブに足繫く通う、 デブ(もぐら) の消防士との ガリガリ(かたまり) 警察官の二人。
自身の性癖を晒されている状況を憂うよりも先に、崇高な職業意識に突き動かされ、逃げ遅れた一般人を救助する、素っ裸にブリーフ一枚の デブ(もぐら) と ガリガリ(かたまり) 。
この状況設定で、素っ裸にブリーフ一枚で舞台を駆けずり回るデブとガリガリを見せつけられて、観客は笑わずにいれる訳がありません。
ラストは無事全員救助し、相変わらず素っ裸にブリーフ一枚、後ろ手に手錠をかけられたまま息を切らしながらも清々しい表情で安堵する二人。ハッピーエンドで幕は下りるのですが、この先、二人は無事に職場復帰できるのか? 僕は心配でならなかったのです。
人間、性癖に限らず、恥ずかしくて人には言えない秘密の癖(へき)は誰もが有しているもの。しかしながらこのコントを見た時、そんなものは人生の弊害でもなんでもなく、誰恥じることなく正々堂々と生き抜いていけばいいんだという勇気を僕たちに与えてくれるのです。 負け続けて来た社会的弱者二人だからこそ醸し出すことの出来る、哀愁と優しさ。
《異質な他者》と自覚して生きざるを得なかった害虫(空気階段のお二人は自分たちでそう言っております)が胸を張って世に問うた一世一代のパフォーマンス! 脚本、構成、身体表現、そして最高にくだらないデブとガリガリの二人のコントの得点は、なんと《キングオブコント》歴代最高得点を叩き出します!
そしてトリを勤めるのは、優勝候補筆頭《マヂカルラブリー》。
やっぱり最高にバカバカしくて最高に面白かった《マヂカルラブリー》のネタ「コックリさん」。コックリさんに乗り移られた野田君が繰り広げる、《野田クリスタルワールド》! M-1を制したネタ「つり革」に通ずる野田クリスタルのパフォーマンスと村上の実況ツッコミは鬼に金棒。 理屈抜き、年代を問わずに笑える《マヂカルラブリー》渾身のコント。
しかしながら出番が、圧倒的な《空気階段》のコントの後だったため、得点は伸びずまさかの9位! 既にネタバレしている感のある野田クリスタルのパフォーマンスは圧倒的に不利だったのではないでしょうか?
ここで
《男性ブランコ》
《ザ・マミィ》
《空気階段》
の3組がファイナルステージ進出決定! 《男性ブランコ》《ザ・マミィ》と、2本目のコントが展開されるのですが、両組とも1本目のネタが強烈過ぎて、それと同等のインパクトは残せずに得点も伸び悩み、合計得点は何と両組同点となる展開。
さあ、残すは《空気階段》のコントのみ。 そのネタは「メガトンパンチマン」!
雨宿りのためたまたま入った喫茶店。 いきなりバランススクーターに乗って出てきたウエイター(もぐら)は、金髪のオールバックに黒ネクタイ黒スパッツをはき、手には格闘用の青グローブをはめた戦闘モードのデブ。 合言葉を求められ、答えられなかった客(かたまり)は侵入者と判断され、無理やりに席につかされる。
ウエイター 貴様、生きてここから帰れると思うなよ!(腕の送信機に向かって)侵入者1名、確保しましたぁ!
戸惑う客(かたまり)に対して思い直したように
ウエイター ご来店、誠にありがとうございます。
ここまで何の説明セリフがないにもかかわらず、この喫茶店は何らかのコンセプトカフェだと悟る観客。 この導入部のスマートさは見事なもの。
あらためてウエイター(もぐら)が説明するには、
ここは《メガトンパンチマン》の世界を忠実に再現したコンセプトカフェだと言うこと。客(かたまり)が《メガトンパンチマン》とは何かと尋ねると、《メガトンパンチマン》は、宇宙で最強の存在で、《メガトンパンチマン》がいることによって宇宙の平和と秩序が保たれていると説明。そもそも《メガトンパンチマン》は何処で産まれたキャラクターなのかと、再び客(かたまり)が尋ねると、自身が小学校5年生の時創作した、漫画の主人公だと言うのです。
このオッサンは小学校5年生の時創作した《メガトンパンチマン》を今だに愛し続け、その消えない情熱をもって誰も知らない《メガトンパンチマン》のコンセプトカフェを開店させたのです。 色々な挫折や失敗があった人生の中、小学校5年時の瑞々しい情熱を失うことなく今まで持ち続けたこのオッサンのピュアすぎる大志に、僕は涙を流さずにはおれませんでしたーーーっ!(勝手に妄想しております)
客(かたまり)の優しいツッコミで、この《異質な他者》への共感と愛おしさを感じたのは僕だけではないはず。会場には時代にはびこる《拒絶感》《疎外感》を 溶かし得る《寛容》の感情が満たされたのです(さらにわたくしの妄想は続きます)
キャラクター設定と素のウエイターの言葉をランダムに行き来しながら接客する、ブレブレのウエイター(もぐら)の心の中に、キャラクターに徹しきれない心の弱さ優しさが溢れ出てしまいます(わたくしの妄想は宇宙を越えて…)。
客(かたまり)に矛盾点をツッコまれ、そのたびに半分キレになりながらも必死に設定コンセプトを説明する愛おしすぎるウエイター(もぐら)。 ウエイター(もぐら)が頑なにコーヒーではないと言い張る《ブラックホールの湧き水》を飲みながら客(かたまり)がくつろいでいると、ウエイター(もぐら)の腕の受信機が鳴り響きます。 その会話で、実はウエイター(もぐら)は《メガトンパンチマン》ではなく、なんと敵の悪役であったことが判明! ついに宇宙の平和を守るため、悪者を倒すべく登場した本物のヒーロー、《メガトンパンチマン》!
そのオブジェのクオリティーの低さに驚く客(かたまり)。 お店と悪役に予算をかけすぎて、肝心の主役キャラクターにかけるお金が底をついたのでしょう。そのせいか、悪役ウエイター(もぐら)の右フックで簡単に倒されてしまう《メガトンパンチマン》
バッドエンドなのかハッピーエンドなのかわからないあっけないオチのラストだったのですが、観客はえも言われない、暖かく、心地よい何かを胸に宿したのです!
この気持ちはなんだぁーーーーーーっ!!
(ザ・マミィ様、パクってスミマセン)
強烈なネタ2本を揃え、演じきった《空気階段》。 今年の《キングオブコント》は、満場一致で 《空気階段》 が涙の初優勝に輝いたのでした!!