決勝進出者すべてのコントが最高に面白かった!! 今までの《キングオブコント》の歴史でこれほどまでにレベルの高かった決勝戦はあっただろうか? 設定、脚本、笑いの質、演技、すべてにわたってオリジナリティー溢れるパフォーマンス。これこそ時代のコンプライアンスや言葉狩りを逆手に取った令和コント師達の心意気!
はい、久しぶりにどうしてもブログに書きたくなるほど感動したものが、ゲス野郎揃いの《キングオブコント2021》決勝進出者の面々だったことが我ながら情けないやら嬉しいやらで複雑な心境なのですが、コントでこれほどに感動したのが《日本エレキテル連合》以来だったので異常に舞い上がっており、嬉しくてしょうがないのです。
去年の《キングオブコント》は、大好きな《ジャルジャル》が優勝したことは嬉しかったのだけれど僕的にはそんなにハマらなかったので、今年は同時刻にネット配信された、総合格闘技RIZIN《朝倉未来vs.萩原京平》を見ていたため 《キングオブコント2021》 は、夜中録画で視聴。
家のものが寝静まった中、大声で笑い転げ、しまいには何故か感動の涙まで流してしまった還暦すぎたジジィひとり。(以後、ネタバレ、バリバリです。ゴメンナサイ!)
まず初っ端で度肝をぬかれたのが結成10年目の男女コンビ《蛙亭》。
「人工生命体」というSFネタ。 中野扮する人工生命体(164)がローションまみれの身体で登場! いきなり口から得体のしれない緑の液体を吐き出す強烈なつかみで会場を一気に凍り付かせます。
これで笑いに持っていけるところが、柔らかなキャラクター、癒し系中野の強み。 ここまで強烈な出オチの後は展開が難しいのだけれどそこは脚本を担当するイワクラの真骨頂。
研究所責任者に扮したイワクラは最初はその不気味で気持ちの悪い人工生命体(164)を受け入れることが出来ず遠巻きに接するのですが、その純粋無垢?な生命体(164)が研究所責任者(イワクラ)との会話によって凄まじいスピードで人間の感情を学習していく中で、研究所責任者(イワクラ)自身も少しづつ愛おしさという感情を育みだすという、なんともヒューマンな展開。
図らずも、今回《キングオブコント》全体のテーマがトップバッター《蛙亭》のコントに集約されており、それは、
《異質な他者への疎外感から受容感》
物語が進むにつれ、観客も《異質な他者》人工生命体164ヒロシ(語呂合わせで自分で名付ける)を愛おしく感じられるようになってしまいます。
何故か政府から殺されそうな展開となる二人。その時、生みの親と思い込んでいる研究所責任者(イワクラ)を守るべくヒロシは、とんでもない攻撃力を発揮して追っ手を撲滅! 最後は研究所責任者(イワクラ)の隠された母性が湧き出て、最初は受け入れがたかった人工生命体を
「ヒロシ――ッ!」
と叫びつつ、二人手をつないでヒロシ念願のオムライスを食べに行くというオチ。
出番がトップバッターであったため、点数は思うほどのびなかったのですが、《蛙亭》のコントで今回の《キングオブコント》の期待値が一気に上がったのです。
二番目に登場したのは、男性トリオ《ジェラードン》
定番の学園コント。転校生・海野(ツッコミ)に絡む、幼馴染の二人・かみちぃとアタック西本(ダブルボケ)。
《常人》の転校生・海野のまえで繰り広げられる《異質な他者》かみちぃとアタック西本。 長髪でオタクっぽいかみちぃと短髪でオッサン顔の小太りの女子学生アタック西本。二人の気持ちの悪いくだらない痴話喧嘩を延々と見せつけられ、鋭いツッコミで終始《疎外》する転校生・海野。
転校生・海野にツッコまれながらも、誇張したアニメ的な動きで展開される二人の《異質な他者》を見続ける観客の心の中には、次第に《受容》の感情が芽生えてくるのです(もしかして僕だけかも)。
ラストは、《常人》転校生・海野に教室の去り際、思いっきり頭を叩かれるオチを見た時、どちらが《異質な他者》かわからなくなったのです(これも、もしかして僕だけ?)
考えなくても見るだけで笑わせてくれる力量はさすが。 しかし、脚本よりもキャラクター芝居が強すぎたのか審査員の評価は平均点。
そして次、わたくしまったく存じ上げなかったコンビ《男性ブランコ》の登場!
度肝を抜かれました!!
何なんだ、
このインパクトは!
このキャラクター(立花真理)は!
この展開は!
終始大爆笑の「ボトルメール」というこのネタは、観客への裏切りの連続で、脚本の素晴らしさとキャラクターの異常な面白さが相まって、今回の《キングオブコント》のテーマ(僕が勝手に言っているだけ)、
《異質な他者への疎外感から受容感》
を現していたのです。
今の時代、「ボトルメール」という古典的なツールで女性と文通していた(僕)が、ついにその女性と待ち合わせをするという設定で始まります。
(僕)は、(白いワンピースを着ている女性)という唯一の足がかりで待っていると、大きな帽子に白いワンピースを着た女性が上手より、しおらしく登場。 その顔は見事なブス(MC浜田談)。固唾を飲んでその第一声を待つ、(僕)と観客全員。 と、スッカスカの酒焼けの声で
「ほんま来てくれたんやぁ!」
と関西弁で畳みかけるように喋りだす(立花真理)さん! 喋りだすまでの佇まいと絶妙な間、そして酒焼け濁声のコッテコテの関西弁。 今だかつて僕はこれほどまでに完璧なつかみを見たことがありません。 そして、このキャラクター(立花真理)さんを演じるボケの平井の演技の見事なこと。以後展開される関西弁の絡みとワードセンスで終始笑いを生み出します。
通常のコントだと《異質な他者》を(僕)は、徹底して《疎外》するツッコミを展開するのですが、(僕)の最初の感想が
「すきだぁ!」
ここで観客はまたしても裏切られます。
脚本の構成が演劇的で、何度かの暗転で挟まれる(僕)の独白の内容がことごとく観客を裏切り、尚且つ笑いに繋げていく構成は素晴らしすぎます。ラストに近づき、(立花真理)さんとの会話が(僕)の妄想であったことがあかされ(三度目の裏切り)、相手の女性がそんな人だったらいいなぁと、時を最初に戻して女性を待ちます。
再び現れた女性は寸分たがわぬリピート再生。 スッカスカの酒焼けの声で「ほんま来てくれたんやぁ!」で始まると(僕)は飛び上がってガッツポーズ!
観客のほとんどが無意識に《疎外》していた《異質な他者》(立花真理)を(僕)が全面的に《受容》することによって大きな笑いを生み出す手法は、厳しいコンプライアンスでがんじがらめのテレビ界を皮肉った《令和のコント師》の心意気を感じたのです。 ただその先駆けは、《キングオブコント2010》でピース又吉が披露した傑作コント《男爵と化け物》だったことは忘れてはいけません。
得点は予想通りの高得点、二位《ジェラードン》に10点差をつけて暫定一位に躍り出ます。
次に登場したのは実力者《うるとらブギーズ》
三大会連続の決勝進出!
二人ともその演技力には定評があり今回も遺憾なく発揮。「迷子センター」という《うるとらブギーズ》 らしいネタで勝負をかけます。 十分笑え楽しいコントだったのですが、設定がありきたりで展開がある程度読めてしまい、最後まで裏切りの展開を見せないまま終わってしまった印象を残し、得点もこれまでの最下位となってしまいました。
いつもですと優勝を競ってもおかしくない内容だとは思うのですが、今年の 《キングオブコント》 のレベルは異次元だったのでしょう。
そして《ニッポンの社長》の登場
バッティングセンター常連、教えたがりのオッサンが頼まれもしないのに遊んでいる学生のスイングを指導するというシチュエーション。
投げ込まれる球が身体にあたりながらも指導をやめない教えたがりのオッサン。 しまいには自分から球にあたりに行くような異常な行動を見せ、学生は怖くなりバッティングセンターから逃げ出します。 腑に落ちないオッサンは首をかしげながら打席へ。100発100中で延々とホームランを放つオッサンのシーンでオチ。
ボケのオッサン役・ケツのパフォーマンスは圧巻で、それだけですべての笑いを巻き起こします。
笑いの量も多く誰でも笑える十分面白いコントなのですが、不幸にも出番が《男性ブランコ》の後だったため暫定2位に滑り込んだものの、ファイナルステージ進出は微妙に。 ここで僕的にはファイナルステージ進出のレベルにあった《蛙亭》が脱落します。 もう一本見てみたかったのですが、来年に期待、負けるな 《蛙亭》 !!
つづくは《そいつどいつ》
普通に笑えるコントだったのですが、今回はレベルが高すぎて新しさをあまり感じられず、意外性も薄く感じて得点も伸びず暫定最下位に。 来年に期待です。
次は、ついに去年準優勝の大本命、《ニューヨーク》の出番です。
まったく仕事が出来ず、使えないウエディングプランナー(嶋佐)と打ち合わせをする新郎(ツッコミ屋敷)。
間違いだらけのプランの打ち合わせにも全く意に介さず、ひたすらボケながら続けていく(嶋佐)。対していつものように鋭くツッコむ(屋敷)。これまた十分面白いのだけれど《蛙亭》や《男性ブランコ》のあとで見たからか、スタイルが少し古臭く感じてしまいました。
得点はまさかの最下位! 今回は賞レースに合わせたネタだったのでしょうか、《ニューヨーク》らしいぶっ飛んだ箇所は見当たらず残念な結果に。 ただ、点数発表の平場でのトークは大うけだったのはさすがでした。
そしてそして、僕的には最高点を差し上げたかった《ザ・マミィ》の傑作コント「この気もちはなんだろう」
わたくし今回、このコントの感想を書きたくてこのブログを上げたようなもの。コントを観てこれほどまでに感動したのは久々だったのです。 《蛙亭》《男性ブランコ》のコント同様、今回の《キングオブコント》のテーマ(僕が勝手に言っているだけだけど)、
《異質な他者への疎外感から受容感》 の最高傑作のコントだったのです。
これまでのお笑いの多くが《異質な他者》を《疎外》し《差別》し、追い込むことで笑いを取ってきました。しかし時代は大きく変容しつつあり、建前だらけの《平等》や《多様性》の精神が幅を利かせ、テレビ界に蔓延する窮屈なコンプライアンスによって異常な言葉狩りが進み、お笑い芸人の芸の幅が年々狭くなっている現状。
瞬時に返すツッコミのワードも、使えるか使えないの選択が必要になってきており、間が命であるはずのツッコミのタイミングがズレてしまうことも多々あるように思えるのです。
《異質な他者》を《疎外》し《差別》してしまうことは人間の性であり、誰しもが心に宿しているもの。 この根本を問うことなく建前のコンプライアンスだけを整えたとしても問題の解決にはならないように思えるのです。 お笑いを生業としている芸人こそがそのことを一番深く理解しているはず。
昔から落語の世界では人間のどうしようもない業をあぶり出し、そのどうしようもなさを皆で認識したうえで笑い飛ばし《寛容》の精神を育んでゆく役割を担っていました。
お笑いにはそのような人間心理の自浄作用があったように思うのですが…。
理屈っぽくなってきたのでこの辺で話を《ザ・マミィ》のコントに戻します。
自身の世の中に対する不満やプライド消失等のストレスのはけ口の場をすべて閉ざされ、ひとり妄想の世界で悪態をつくことしか生きる意味を持てなくなったオヤジ(酒井)。 今日も街中、ひとり大声で悪態をついております。 そこに通りかかった青年(林田)。田舎から出てきたばかりなのか、見るからに異質で独り言を怒鳴り散らすオヤジ(酒井)に道を尋ねます。
人に語りかけられたことのないオヤジ(酒井)は2度3度と無視をするのですが、正面から目を見つめながら道を尋ねる青年(林田)を無視続けることも出来ず発した言葉は
「おまえすごいねぇーーーーっ!! スゴイ来んじゃん! 偏見とかないのぉーーっ!」
「もっと人をえらべよ、俺はまだ僅かに自我が残っていたみたいだからいいけど、完全にそうじゃない奴とかいるからねぇーーっ!」
初っ端のこのシーンでわたくし、完全にやられました。
あきらかな《異常者A》に対してそれをものともしない違う種類の《異常者B》が掛け合わせられたときに起こる異常なハレーション! 観客はここから《異常者A》に対しての感情移入を 強制的にさせられるのです。
青年(林田)が尋ねた目的地は、最近開店したイケてるクラブ。 これに対してオヤジ(酒井)の発した言葉、
(自分の顔を指さしながら)「これが新しくできたクラブを知っている顔とおもうかぁ? 少しは見た目で人を判断しろーーーーーっ!!」
(遠くを見つめながら)「か、悲しいこと言わせんなよーーっ。」
ハイ、このセリフの一言でオヤジ(酒井)の生きてきた全貌を言い表しており、本来シャイで心優しい繊細なハートを持っていたがために、現代社会にそぐわず負け続けてきた人生がありありと思い浮かぶのです。
その後、「他をあたってみます」と言いながら立ち去る青年(林田)。やっと青年(林田)から解放されたオヤジ(酒井)は、平常運転に戻り、再び大声で独り言を怒鳴り散らし始めます。 しかし再び青年(林田)が目の前に。 財布を落としたのでお金を貸してくれと懇願します。しかも2万円も!
(自分の顔を指さしながら)「これが二万も貸せるわけねーだろーーーっ! そもそも初対面の奴に金貸す奴いねぇわーーっ!」
(遠くを見つめながら)「あんまり俺にまともなことばっかり言わせないでよーーっ。」
さらにあろうことか青年(林田)は財布を探してくると、自分のカバンをオヤジ(酒井)に預けて立ち去るのです。一瞬魔が差して持ち去ろうとするオヤジ(酒井)。なんとか思いとどまって、財布を見つけ帰ってきた青年(林田)に返します。更にその心を試すかのように、トイレに行ってくるからと見つかった財布をオヤジ(酒井)に預けてまたしても立ち去るのです。
さすがに財布を覗き込むオヤジ(酒井)。中にたくさんの万札を見つけたオヤジ(酒井)は今度こそ盗もうとするのですが
オヤジ あれ… でもなんかあいつ、俺の事信じていたなぁ、人に信じられたのって初めてかもなぁ…。
ちきしょう! ちきしょう! と泣き叫びながら財布にお金を戻すオヤジ(酒井)。その一部始終を遠くから見ていた青年(林田)
青年 おじさん、僕のお金を取らないでいてくれてありがとう!
オヤジ 今、ありがとうって言ったか?
青年 うん
オヤジ こんな俺に感謝したのか?
青年 おじさんありがとう、僕ねぇ、おじさんのことが大好きだよ!
この時、突然オヤジ(酒井)の胸に豊かで大きく暖かい何かが宿ります。
オヤジ (胸をおさえながら)ここに何かある、胸が暖かい! おいボウズ、何だこの気持ちは? なあボウズ、この気持ちは何だって聞いてんだ!」
この気持ちはなんだぁーーーーーーっ!!
ここからいきなり《かまいたち》山内が言うところの、世界一汚いミュージカルが始まります。そしてオヤジ(酒井)と青年(林田)が手に手を取って歌い踊るその曲は、な、なんと、谷川俊太郎《春に》という合唱曲!
僕は夜中ひとりで笑い転げ、意味不明の涙をボロボロとこぼしつつ、
ここに何かある、胸が暖かい!
この気持ちはなんだぁーーーーーーっ!!
と、飼い猫二匹を叩き起こし泣き叫んだのでした。
あまりに感動したので、ほぼ全編を書き起こしたような野暮な感想になってしまいました。ザ・マミィさん、お許しください! 実際に映像をご覧になった方ならおわかりでしょうが、こんな感想を読むより何倍も感動しますので、是非映像をご覧ください。
審査員の得点は、予想通りの高得点!この時点でトップに躍り出ます!
あの高尚な詩人・谷川俊太郎《春に》の世界観を 薄汚い芸人 《ザ・マミィ》 がコントというジャンルで余すことなく表現しきったことに敬意を表して、その歌詞の一部をここに掲載いたします。
谷川俊太郎《春に》
この気持ちは何だろう
この気持ちは何だろう
目に見えないエネルギーの流れが
大地から足の裏を伝わって
この気持ちは何だろう
この気持ちは何だろう
ぼくの腹へ胸へそしてのどへ
声にならない叫びとなってこみ上げる
この気持ちは何だろう
枝の先のふくらんだ
新芽が心をつつく
喜びだしかし悲しみでもある
苛立ちだしかも安らぎがある
憧れだそして怒りが隠れている
心のダムに堰き止められ
よどみ渦巻きせめぎ合い
今あふれようとする
この気持ちは何だろう
ちょっと長くなりすぎたので、後編で 《空気階段》 を思いっきり語ります!