M-1グランプリ2017《とろサーモン》が優勝をかっさらう。 ラストイヤー15年目にして初の決勝進出。そして大番狂わせの奇跡の優勝!!

とろサーモン

まさか、まさかの大番狂わせ! その実力は早くから評価されてはいたものの、並みいる強豪漫才師を向こうに回し、痛快きわまりない勝ちっぷり!これぞ、負け犬くされ芸人の底力!!

おめでとうございます、とろサーモン!!

いやー、一番喜びの涙の似合わないよごれ芸人(褒め言葉です)のお二人が、苦節15年目のラストイヤーにして涙の優勝を飾りました。今年のM-1は、史上最高レベルの大会だったことは異論のないところだと思うのですが、その中で《とろサーモン》の優勝を予想していた人は、ほとんどいなかったのではないでしょうか?

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今年のM-1ブランプリ決勝は、本当に高レベルで見応え十分でした。しかし今年から導入された「笑神籤」という新ルールは、出演者にとっては非常に過酷なもので、最後の出番となった《ジャルジャル》は、それまでに精神力と集中力の大半を削がれており、本当に気の毒でしたが、あの高度に計算された複雑なネタを、完璧にやりきったのは、流石というほかありません。

しかし審査員の評価は思ったより低く、やりきれない想いでした。 前衛的で実験的な取り組みをした事のない芸人さんは、《ジャルジャル》のネタの独自性と発想力、そしてそれを表現する演技力を理解出来ないのでしょうか?

巨人師匠松本人志は高得点を付けていましたが、その他の審査員の点数の低さに涙を飲む形となりました。

得点が出たあとの今田耕司や審査員との絡みで、何事も無くボケる後藤に、福徳「おまえ、ようボケれるなぁ…いま」といったシーンが、その無念さを物語っていました。 それほどに、今回のM-1にかける想いが強かったのでしょう。

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「笑神籤」が出した運命のトップバッターは、《ゆにばーす》。一段と腕を上げており、楽しかった。出番がトップでなければ、もう少し点数が伸びたのでは? くじ運に恵まれずに惜しくも敗退。

2番目に登場の《カミナリ》も去年より数段進化した漫才を披露。上沼恵美子から「頭はたくのいるか?」という身も蓋もないお言葉に苦笑い。世に出る為に不可欠であった《カミナリ》の生命線をそんなに簡単にかたずけてしまわれては…。それに対して、まなぶくんの頭を撫でるたくみくんのボケは色々な意味で最高でした 。今後に期待ですね。

そして《とろサーモン》。気負う事なく、いつもの脱力感のある独特のボケで《とろサーモン》独自の世界観を表現。予想以上の高得点でした。

次は、敗者復活で勝ち上がったきた《スーパーマラドーナ》。会場のウケもよく凄くいい出来で、決勝進出の3組に勝るとも劣らずだったのですが、いまいち点数が伸びなかった。「俺が一番M-1のこと想ってんねん!」と叫ぶ、武智の目の血走りように、並々ならぬ本気度を感じました。まさに命を削ってM-1に望んでいる証拠。

そして前人未踏の2冠のかかる《かまいたち》。いかにも《かまいたち》らしいネタで、最高に面白かったのですが、これも得点が伸びなかった。渡辺リーダー上沼恵美子の低得点が響きました。残念!

マヂカルラブリーは、とりあえず飛ばして……、嘘です。

あのネタは《漫才》と言うよりも《コント》に近く、会場のウケもいまいちだったので、仕方のない結果と受け止めて、次回リベンジに燃えてほしいものです。

そして《さや香》。 まったくノーマークの新鋭で僕は今回始めて見たのですが、いやーっ、意外性のあるネタで、今回一番笑わせてもらいました。決勝に上がってくるだけのことはある面白さで、あのシンプルなネタでここまで笑わせる事が出来る実力は本物でしょう。他の漫才師とは、総合力で多少劣っていたのでしょうか?

さぁ、ここから優勝候補3組がいよいよ登場!

まずは《ミキ》。もともと、ミキの漫才スタイルは完成されていたのですが、さらに進化した漫才を披露。安定感抜群、そして信じられないスピード感を実現し、独特のグルーヴ感で観客を魅了。順当に勝ち上がります。

そして本命《和牛》の登場! 素晴らしいネタ、素晴らしい間、素晴らしい演技力。三拍子揃った《和牛》の漫才は既に巨匠クラス。ファーストランド最高得点をたたき出し、文句なく決勝進出。

そしてしんがりに控えしは、僕の一押し《ジャルジャル》。 ジャルジャル渾身の漫才を完璧に披露するも、審査員の理解を得られずファーストランド涙の敗退! この新しい漫才のスタイルが認められるには、後何年待たないといけないのでしょうか? 

負けるなジャルジャル!!

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結果、決勝は《和牛》《ミキ》《とろサーモン》の3組。

決勝ランドは、3組とも素晴らしい出来で、僕の予想では《和牛》《とろサーモン》はまずないだろうと思っておりました所! な、な、何と優勝は《とろサーモン》!! 大逆転の優勝! 最終年度の優勝! 涙の優勝でした。

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前回の《Dr.ハインリッヒ》の記事で、M-1で期待する漫才師として《とろサーモン》を応援はしていたのですが、 まさか優勝するとは露程も思っていなかった15年目の《とろサーモン》

その鮮度はとうの昔に落ちきっており、最早ひからびてカチッカチになってしまっていたサーモンに、流す涙程の水分が残っていたとは…。

優勝したときのお二人の顔は、色々な感情を含んだある意味非常に美しい表情で、芝居等では絶対に見られないリアクション。見ているこちらも思わずもらい泣きをしてしまう程でした。

デビュー当初から、ボケの久保田の独創性はズバ抜けており、そのボケをツッコミの村田がスカしたり、タタキ潰したりする様な《とろサーモン》独自の漫才スタイルを展開し、いわゆる〈スカし漫才〉と言うジャンルを作り上げます。

当時から、そこそこの知名度はあったもののメジャーになりきる事が出来ず、売れない時期が長く続くのです。 大変に面白く僕的には大好きな部類の芸人さんであったのですが、一般受けとなると、お二人の気配や芸風が非常に陰湿で、ひがみ、妬み、嫉みの塊のような芸人に見えてしまうためとても損をしている様子でした。

受賞歴もそれなりにあるのですが、何故か負け癖のオーラをまとっており、どこか冷めて、諦めている雰囲気があるのです。 時々ネタ番組やバラエティーで見かけるのですが、その度にすさんで行っているように見え、典型的なマイナー漫才師、くされ芸人の佇まいと匂いを強めていきます。

ネタそのものは何時見ても面白く、現場ではウケているので、芸人をやめるか続けるかの踏ん切りがつかないまま、今に至っているように思えました。

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しかしながら、人生、何時だって上書き可能!

どんなにクソみたいな負け続けの人生であっても、死ぬ直前まで、すべてを変革し昇華する可能性を人は与えられているのです(故に、絶対に人生をあきらめてはいけないのです!)。今までの過去の時間すべてに光を当て、一瞬にしてそのすべての時間を救う事が出来るのは、今、生きているこの瞬間の自分自身しかないのでしょう。

神は《 M-1優勝》という形で、苦節15年の間に溜まりにたまった、ひがみ、妬み、嫉み、恨み、そのすべて昇華させ、それまでの人生の一切を大逆転出来る特異な瞬間を《とろサーモン》に与えてくれたのでしょう。今後はポジティブにメジャーな舞台で長く活躍出来ますよう、期待しております。

改めまして、

おめでとう! とろサーモン!

おしまい