僕達を救ってくれた珠玉のフォークソング④ 吉田拓郎《流星》は、捨ててしまったトキメキや、捨てざるを得なかった切望たちの《鎮魂歌》なのか?

吉田拓郎・流星

40年以上前にリリースされた《流星》は、何故これほど、世代をこえて共感を呼ぶのでしょうか? 《流星》を聴くたびに、遠い昔に捨ててしまった《トキメキ》たちや、二度と追体験できるはずのないその時々の《心の疼き が、よみがえってくるのは僕だけではないのでしょう。


年末のM-1グランプリは、ドラマチックな展開で、新星《ミルクボーイ》が、《かまいたち》《和牛》らの実力者を抑えて見事優勝! 見ごたえのある決勝戦でした。 で、先日《M-1アナザーストーリー》という、決勝戦出場漫才師のそれぞれのアナザーストーリーを映すという、感動的な番組を見てしまったのです。 

そしてラストの一番感動的なシーンのバックに流れた曲が、久々に聴いた《流星》だったのです。 歌っていたのは拓郎ではなく《ハルカトミユキ》というグループのハルカというお嬢さん。 映像とドンピシャすぎて、涙ボトボトの鼻水ジュルジュル状態で大号泣していた所を 風呂から上がってきたかみさんに見られてしまい、「さっきあんだけ大笑いしとったのに、今度はなんでそんなん泣けると? あんたの情緒はどうなっとるん!」 と罵られる始末。 

からす


というわけで、今回は久々に聴いた、吉田拓郎《流星》を取り上げ、いつものようにあーだこーだと勝手な戯言を書き散らかしてみようと思うのです。


♪ たしかな事など何も無く ただひたすらに君が好き


♪ うぉ~ぉ~おぉ~ 流れて行く……


この歌の全てが集約された二つのフレーズ。

 
時は僕たちの想いや都合にかかわらず、淡々と流れて行きます。 流れの中に取り残された、なんとも言い表せない心の疼きを 拓郎は詩的な言葉と独特のメロディーに乗せて歌います。 

幼少期から思春期にかけて形成されたガラスのような自我のフィルターを通して感じた世界と人々への想い。その時々に置いて行ったトキメキ、煌めき、せつなさ、痛み。 これらすべてのものは、その瞬間に現れては流れ消えて行く流星のよう。

時が過ぎてしまった今、あの頃の情緒はもう二度と僕たちは体験できないのでしょうか…。

日々の生活の隙間で、ふと誰もが感じる心の疼きに、この曲《流星》はぴったりとシンクロしてしまうのです。世代を問わず歌い継がれている訳は、人間が根源的に持つ過ぎ去った《心の疼き》への哀愁を誘うからなのか?

からす


大好きだった、拓郎デビュー当時の曲《どうしてこんなに悲しいんだろう》と、曲調も歌詞の内容もとても近いものを感じる僕なのですが、年を重ねるごとに《流星》のほうが好きになり、還暦を越えた今、増々言いようのないせつなさにさいなまれてしまうのです。


ガラスのような自我のフィルターを通して生きていた時代に感じた様々な《疑問》たちは、根本的に解決されることなく増殖していき、未だ置き去りにされたまま。 これらすべてを心の奥底に沈め、誤魔化しながら生活に追われやり過ごす日々。 

今一度その《疑問》たちを掘り起こすエネルギーと勇気は、今の僕たちに残っているのでしょうか?

からす
流星・1


ありえないほどに荘厳で美しい夕焼け空に、心を映したことはありますか?
流れる川面を 何も考えず眺め続けたことはありますか?
ブルーモーメントの中、飴色に揺れる太陽の炎を見たことはありますか?
夕空を背景に黒く覆った丘の稜線を たどったことはありますか?


自分の信じる正義のために戦ったことはありますか?
信じるとは何ですか?
正義は誰がはかるのですか?
正義を疑ったことはありますか?
戦いに正義は含まれますか?
熱に浮かされていた自分を 認めることが出来ますか?
熱に浮かされていた自分を 許すことが出来ますか?

からす
流星・2


夕焼け空を背にそびえたつ鉄塔に、憧れを感じたことはありますか?
水田に映し出された茜色の光は、本物ですか?偽物ですか?
飛び立つ鳥はどこに帰りますか?
これ以上、日が暮れないでほしいと願ったことはありますか?


生きることは表現だと思ったことはありますか?
表現とは何ですか?
想いを伝えたい人はいますか?
どういう手段で想いを伝えたいですか?
言葉で伝えますか?
それ以外の何かで伝えますか?
沈黙の饒舌さを感じたことはありますか?

からす
流星・3
流星・4


春風にそよぐ少女のワンピースの裾に、愛おしさを感じたことはありますか?
黒い瞳の奥底の宇宙を 覗いたことはありますか?
その子の感受性の豊かさを 戸惑いの表情の中に見たことはありますか?
初恋のあの子と今、会いたいですか?


どうしてあの子が好きなのか、考えたことがありますか?
好きとは何ですか?
好きに理屈や条件はいりますか?
恋に落ちるの落ちるとは何ですか?
狂おしいほどに人を好きになったことはありますか?
生きている意味がわかったように思った瞬間はありますか?
その瞬間、永遠だと感じたことはありますか?

からす
流星・5


何でもない日常の風景を 美しいと感じたことはありますか?
取るに足らない建物を 愛おしいと感じたことはありますか?
間近で見るカラスの羽の真っ黒な美しさを 知っていますか?
夜空の星々の光を見た時、運命や宿命を信じてしまったことはありますか?


流れゆく日々の中で置いて行った感情に、復讐されたと自覚したことはありますか?
今の日々の生活は感受性を育みますか?鈍らせますか?
何時も笑っていますか?怒っていますか?
人生を形作るのは日々の生活ですか?大切な特別なあの日ですか?
もう言い訳はしないと誓ったことはありますか?
違う感受性を持った人たちを うらやましいと思ったことはありますか?
想いは未来にありますか?過去にありますか?それとも今にありますか?

からす
流星・6


草の匂い土の匂いを 覚えていますか?
アスファルトの隙間に咲くたんぽぽの黄色い花は、笑っていますか?泣いていますか?
雨上がりの水たまりに映る虹は、幻の幻ですか?
風にざわめく大きな楠に、神を感じたことはありますか?


人生とは相対的なものですか?
より以上の欲望を満たすことの努力は、素晴らしいものですか?
努力とは何ですか?
夢とは何ですか?
自分をどうやって確かめますか?
時代に乗ることは、進むことですか?後退することですか?
一人ぼっちは淋しいですか?

からす
流星・7

夜景に光る一つひとつの灯に住む人の、それぞれの人生に想い巡らしたことはありますか?
暮れなずむ大都会の上空を 飛びまわりたいと思ったことはありますか?
高層ビルの上空の住人たちと、土の上に住む人たちの思考は、徐々に乖離してゆくことを考えたことはありますか?
稲妻一閃! 勝ち誇ったような都会をぶち壊してほしいと願ってしまったことはありますか?


幸せと感じたことはありますか?
不幸と感じるのは何故ですか?
運、不運とは誰が決めますか?
自分に嘘をついたままですか?
嘘とは、正直とは何ですか?
努力すれば幸せになれますか?
夢と幸せは陸続きですか?

からす
流星・8

逆流している川を 不思議に感じたことはありますか?
この世とあの世の境目のような景色を 見たことはありますか?
薄暮の饒舌さを 感じたことはありますか?
川面の煌めきに、心躍ったことはありますか?


ほしいものは、自分のものにしないと満足できませんか?
ほしいものは、お金で買えますか?
お金で買ったものを 自分のものと思えますか?
ほしいものは、努力すれば手に入りますか?
努力して手に入れたものも、自分のものと思えますか?
ほしいものを得た時、永遠に幸せになれたと思ったことはありますか?
ほしいものを得た人を 幸せな人だと思いますか?

からす
流星・9

森の中の全き闇に、包まれたことはありますか?
自分の月影を見たことがありますか?
今ここにいるという、本当の実感はありますか?
消えていくものの美しさを知っていますか?


安定、安心を望みますか?
この宇宙に、安定はありますか?
安心とは何ですか?
どうして、不安なのですか?
眠れない夜に何を想いますか?
胸がかきむしられるような、せつなすぎる感情を 夢で思い出したことはありますか?
過ぎ去った過去に、心が疼きますか?

からす
流星・10


君のほしいものは何ですか?
僕のほしかったものは何ですか?


それは永遠に手に入らない、夜空に消える《流星》のようなもの……。 

おしまい