ミュージカル映画《グレイテスト・ショーマン》 圧倒的なクオリティの楽曲と演出。これぞキング・オブ・ミュージカル! キング・オブ・エンター テーメント!

ここ最近のミュージカル映画の中で、断トツで面白かったハリウッド・ミュージカル! 題材とされているテーマはありきたりのものだけど、この理屈抜きで涙があふれる、圧倒的な高揚感はどこからくるのか?

観に行こうと思っていて忘れていた所、僕の娘が先に観て、珍しく強く勧めるものだから遅ればせながら観に行ってきましたよ、《グレイテスト・ショーマン》

いやぁーーーーっ、面白かった! 「まじまんじっ!まじまんじっ!」と、JKにも伝えたくなるほどに(何でだ?)大感動した作品でした。

からす

若い頃からミュージカルが大好きで、特に1940~1950年代のMGMミュージカルのリバイバル上映を好んで観ていました。フレッド・アステアジーン・ケリーの軽快で愉快なダンス、タップ、歌声。 ウディ・アレンの映画などで、好んで使われるスイングジャズの名曲の数々。ガーシュインの生み出した珠玉のミュージカル・ナンバーの多くは、ジャズのスタンダードとして今だに歌い継がれております。

アメリカが病んでしまう前の一番美しかった時代、ハリウッドでは最高にご機嫌な名作ミュージカルが数多く作られました。

単純なストーリー、能天気な恋愛物語。楽しいだけのファンタジー(夢物語)を超豪華なセットをバックに、素晴らしい歌と踊りで存分に魅せてくれた MGMミュージカルは、今見てもウキウキするほどの楽しさなのです。しかし、《ウエスト・サイド物語》を境に、ハリウッドミュージカルは、アメリカの闇の部分を大きく描き出し、それまでの楽しいだけだったMGMミュージカルは姿を消します。

からす

《ウエスト・サイド物語》は、そのサントラ盤を腐るほどに聴き込んだほど、大好きなミュージカル映画の一つだったのですが、それ以後は、あつかうテーマが重くなりすぎ、コテコテのミュージカルはそれほど多くは製作されなくなりました。

しかし近年、《美女と野獣》《コーラスライン》《シカゴ》等がヒットし、ミュージカル映画復興の兆しが見え始めます。そして極めつけは《レ・ミゼラブル》

いやーこれは度肝を抜かれました。終演後は一時席を立てなくなるほどの衝撃!「凄げーっ!」以外言葉が出ないほど。超ヘビー級の重たさと汚さ。「何でここまで汚くするわけ?」と言いたくなるほどのリアリティーと臨場感。出演している役者さんのことごとくが、凄まじい程の演技力と歌唱力。生の演劇を舞台間直で見ているような錯覚を覚えました。

主役のヒュー・ジャックマンとコゼット役のアン・ハサウェイ、まさに魂の演技でした。

からす

そしてまたもや、そのヒュー・ジャックマンが主役のミュージカル映画が、今回の《グレイテスト・ショーマン》(ドンドン、パチパチ、ヒューヒューヒュー・ジャックマン!) またまたやってくれました。

今回は打って変わってコッテコテのエンターテーメントミュージカル! 扱っているテーマはそれなりにヘビーなものなのだけれども、そこはエンターテーメント、それほど重くなってはいけません。あえて深く掘らずに、そこそこのところに押さえて、歌と踊りで天に昇華させるという、ミュージカルの王道に原点回帰。

最高に素晴らしかった!

テーマを要約すると、本物(Genuines)と偽物(Fake)とは何か? 真実と嘘とは何か? そして人間である限り、誰もが心の奥底に持っている、決して誤摩化すことの出来ない《差別意識》とは何なのか?

本物と偽物を計るスケールは幾種類も存在し、そのスケールによって見解は違うもの。真実と嘘なんて言うのも曖昧なもので、人の記憶なんて時が経てば自身に都合のいいように書き換えられます。耐えられないほどつらいものは忘れ、楽しかったことはよリ以上に美化されるもの。

このような難しく重たいテーマを《グレイテスト・ショーマン》は、どのようにエンターテーメントのミュージカルとして仕上げたのでしょうか?

からす

物語は、実在の興行師、P・T・バーナムの半生を描いたもの。(ここからは、バリバリのネタバレありです)

主人公のバーナムは最下層の生まれで、幼い頃から物乞い同然の生活。それでも必死に生き抜きながら成長し、何とか定職につくことが出来ます。幼い頃に出逢った良家の娘チャリティと、その父親の強烈な反対を押し切って結婚。二人の娘をもうけつつましく暮らしています。 しかし、元来夢想家で あったバーナムは、勤め先の会社の倒産を期に、沢山の(フリークス)の人達を集め、サーカスの興行を始めるのです。

バーナム自身がマイノリティーとして世間から蔑まれてきた経験上、フリークスの人々の心情が痛いほどに理解出来、それを肌で感じたフリークスの団員達は、解き放たれたようなパフォー マンスを展開。瞬く間に大評判となり、劇場は大成功を収めます。

からす

この劇場のパフォーマンスのシーンは本当に圧巻でした。

パーナム役のヒュー・ジャックマンフリークスの団員たちのセンターに立った時の圧倒的な存在感! そしてその多幸感を生み出す計算され尽くした演出力!

不揃いの美、異形の美のダイナミックさ満載で、フェリーニ寺山修司などがやった手垢のついた表現をなぞることなく、今の時代の人達をも十分満足にさせる斬新さと美しさがありました。

そしてその時々に歌われる曲すべて素晴らしい! 

その一曲の中に時間の経過と物語の説明的な要素を巧みに織り込み、物語と音楽とダンスが違和感なく流れるように構成され、オシャレで非常に心地よいものでした。

からす

ストーリーに戻ります。

大成功を収め、経済的には豊かになったバーナムですが、世間からは相変わらず、「インチキなフリークスショー」と馬鹿にされ続けます。上流社会出身の新進気鋭の劇作家、フィリップ・カーライルをスカウトするも、バーナム自身の強烈なコンプレックスを解消することは出来ませんでした。

ここでの、酒場でバーナムフィリップをスカウトするシーンも素晴らしかった。

酒場のバーテンダーを挟んでの丁々発止のやり取り。歌って踊ってのパフォーマンスが終わったとき、映画館なのに思わず小さく拍手をしてしまいました。

からす

再び、ストーリーに戻ります。

人は散々蔑まれ差別され続けた経験があるからこそ、強烈にその境遇から脱したいと願うもの。 そんなとき出逢ったのは、欧州随一のオペラ歌手、ジェニー・リンド。アカデミックな教育で、徹底的に訓練された、いわゆる(本物)の芸術家。ここで、バーナムは、フリークスショーのパフォーマー達との芸の相違を見せつけられます。

このとき、観客である僕たちは「芸術とは何なのか?」という大命題を突きつけられるのです。

からす

結局、世間に認められ、上流社会への仲間入りを望むバーナムは、ジェニー・リンドを担ぎ、全米ツアーに打って出ます。

サーカス劇場の運営はフィ リップに任せっきりで、ジェニー・リンドに入れ込み上流社会との交流を深める中、バーナムは今まで同士であったサーカスの団員達さえも疎ましくなり、精神的にも裏切る形となるのです。

それと平行して、劇作家・フィリップ・カーライルと団員の有色人種・アニーとの恋愛も描かれ、フィリップの両親にアニーを紹介するも、侮辱されてしまい、フィリップ自身の心の奥にも、差別意識が依然として根強く残っていることを自覚し愕然とするのです。

からす

結局、全米ツアーもジェニー・リンドからの想いを受け取れない(それ以上に家族を愛していた)バーナムは、ジェニー・リンドの裏切りにあい、ツアー半ばでスキャンダルを起こし、莫大な借金を残したまま公演打ち切り。フィリップに任せていたサーカスの劇場も反対派の住民の放火で全焼してしまいます。結果、豪華な自宅も差し押さえられ、最愛の妻からも愛想をつかされ、娘達と共に実家に帰られてしまいます。

バーナムは、今まで築き 上げて来たものすべてを失ってしまうのです。

はい、ここまでドン底に落ちてしまったら、後は浮かび上がるしかありません。ここからミュージカルの王道、ハッピーエンドに向かって話は突き進みます。

からす

すべてを失ったバーナムに対し、フィリップは劇場の再建を求め自身の全財産を差し出します。一度は裏切られた形となったフリークスの団員達も、もう一度バーナムを信じることを決め、団員皆が無条件で居ていい場所、バーナム劇場は蘇るのです。

では何故、一度裏切った相手を皆はもう一度信じることが出来たのか?

映画のなかではその辺りの描写が薄いのですが、そんなものに理屈はないのです。この世に完璧な人間など存在しません。「自分は人を差別しない」と、絶対正義の立ち位置で生きている人ほど怖いものはありません。 人は誰もが心の奥に《差別意識》を持っています。散々差別された人達も、立場が変わればバーナムと同じように下位のものを差別し始めます。その心の弱さを皆が認識し、人間の業を理解した上で、許し、愛するしか道はないのです。

許すことに理屈はなく愛することに理由はありません。

理屈や理論では解決し得ないものを魂のパフォーマンスで問答無用に溶かして見せること。 それこそがミュージカル最大の武器。そう、その最強の表現が、魂の歌と踊りなのです。

からす

先ほど書いた、「芸術とは何なのか?」という大命題の答えもここにあるのでしょう。

「本物か偽物か?」「真実か嘘か?」そんなものはどうでも良いのです。人間が全存在をかけた魂のパフォーマンスは、人を幸せにする力が確実に宿っています。それこそが芸術の存在意義なのではないでしょうか?

からす

この映画の最後に書かれたメッセージが、この物語のすべてを要約しています。

「もっとも崇高な芸術は、人を幸せにすることだ。」P・T・バーナム

やはりミュージカルは素晴らしい! 人を幸せに出来る最高最強のエンターテーメント!
人が言葉を越えたメッセージを送る時の最高の表現が歌であり、踊りなのでしょう。

それでは、意味のない言葉で終りと致します。

「グレイテスト・ショーマン、まじまんじっ!」

おしまい