《奇妙礼太郎》心の隙間にスッと入り込んで、知らないうちにその隙間を埋めてくれるような歌声。

奇妙礼太郎

奇妙な顔、奇妙な歌声、奇妙な活動。 スイング楽団、ロックバンド、ソロ活動と、その形態をめまぐるしく変化させながら、常にロックンロールを生きる、なんとも奇妙な奇妙礼太郎。

多感な時代を過ごした幼年期から20代位までの感受性は、強烈に心のひだに染込むもの。物を作ったり感じたりするセンサーはその頃の感性を核に形成されており、この歳になってもそれは変わりません。

常にアンテナを張り、時代の流れを感じることは出来るものの、悲しいかな、多感な時代に形成された根本の感性は、動かないのです。 新しいものや時代の流れに感動はするものの、心の奥底に落とし込み、心のひだで感じることは、なかなか出来ないもの。

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5年程前、うちの息子に教えてもらった奇妙礼太郎。その歌声を最初に耳にしたのは、奇妙礼太郎トラベルスイング楽団の演奏で昔の洋楽のカバー、《オー・シャンゼリゼ》。ブラスセクションをバックに、軽妙で心地よい声質で歌われる《オー・シャンゼリゼ》は、おもわずスキップしたくなる程。

あらためて、歌い手の善し悪しは、「声質で80%は決ってしまう」という持論を確信したのでした。第一声で「ん?」と感じた歌い手さんは、やっぱり売れるんです。さらに、奇妙礼太郎トラベルスイング楽団は、僕の大好きなスイングジャズ風のブラスセクションアレンジが施しており、ど真ん中でした。

息子が勧めてくれるミュージシャンは、良いとは思ってはいても、何度も繰り返し聴くことは稀なのですが、《奇妙礼太郎》、いいんです。僕の古い感性の センサーにも引っかかってしまい、何度も何度も聴いてしまいます。 その理由が、奇妙礼太郎の歌う数々の歌謡曲のカバーを聴いた時にわかるのです。

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他の歌手の代表曲をプロがカバーするということは、しっかりリスペクトした上で、その人ならではの新たな解釈で歌い上げ、改めて「このうた、こんなに良い歌だったんだ」と思えるものでない限り、ただの上手なカラオケになってしまうもの。

奇妙礼太郎のカバーは、そのエッセンスを残しつつ、まったく原曲に引きずられることなく奇妙礼太郎ならではの世界観を作り上げます。そして、その声質に含まれる、せつなさ、やさしさの波動は、大きな説得力を生むのです。また、その選曲は僕らの世代を泣かせるものばかり。

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奇妙礼太郎の歌う数々のカバー曲をざっと上げてみますと、

《赤いスイートピー》       松田聖子

《白いパラソル》         松田聖子

《SWEET MEMORIES》         松田聖子

《悲しくてやりきれない》     ザ・フォーク・クルセダーズ

《やさしさに包まれたなら》    荒井由美

《ラジオ体操の歌》        NHKラジオープニングテーマ曲

《星に願いを》          『ピノキオ』の主題歌

《オンリーユー》         プラターズ

《デイ・ドリーム・ビリーバー》  モンキーズ

《サン・トワ・マミー》      アダモ

《いいんだぜ》          中島らも

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どの曲も素晴らしいのですが、中でも松田聖子《赤いスイートピー》が秀逸なのです。ユーミンの作曲で有名なこの曲は、大好きな方も沢山いらっしゃることでしょうが、このバージョンは男性のこころの奥底に眠る、《永遠の処女性》の発露?(言っている意味がよくわからん)の歌なのです。

男性が死ぬまで思い描き、求め続ける、《永遠の処女性》(神に通じる)は、川端康成《眠れる美女》にも描かれている通りなのですが、これは、異常な性的倒錯なんかではなく、男性である限り誰しもがあたりまえのように持っている、サガなのです。

奇妙礼太郎が、ユーミンのラヴソングを歌うとき、この男性のもつ《永遠の処女性》がダダ漏れで、原曲とは違う新たな視点の情景が浮かび上がって来るのです。女性が歌うと現実的な物語が、ここでは永遠のファンタジーとなって現れます。

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変わったところでは《ラジオ体操の歌》。これはカゴメ「野菜生活100」のCMソングとして流されていたので、耳にした方もおられると思うのですが、小さい頃、町内のラジオ体操に行っていた時から大好きな曲だったのですが、「これをもってきたかぁ」と、意表をつかれたのを覚えています。

朝早起きして、「今日も一日元気で頑張ろう!」的な歌なのですが、どこか哀愁を帯びたメロディーが、それ以上のものを表しており、さらに奇妙礼太郎が歌い上げると、「今日も一日元気で頑張ろう!」の言葉に至る迄の、さまざまな人生の物語が感じ取れるのです。

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そして問題は、中島らもの《いいんだぜ》

まだ、このブログでは取り上げていませんが、天才、奇才、中島らもは多才な人で、コピーライターから始まり、放送作家、作家、テレビタレント、劇団主宰、役者、そしてミュージシャンでもあるのです(残念なことに既に亡くなっているのですが)。

《いいんだぜ》は、差別用語だらけ(あえて)で絶対的な愛を歌った隠れた名曲で、歌の最初から最後まで、君(恋人に限らず、すべての人に)が世間的にどんな人(人種、障害者、病人、精神病患者、性病患者)でも、「僕は君のすべてが大好きだぜ!」叫んでいるだけの「これぞ中島らもだ!」という、究極のラヴソングなのです。

奇妙礼太郎は、現代の社会情勢にあわせて部分的に歌詞を変えており、最後のところは原曲には無い、観客への問いかけで終わっています。これはキツイ! 自分の中に眠る偽善性があぶり出され、「で、おまえはどう生きる?」と問われます。ラブソングなのだけれど、何のメッセージも歌っていない、強烈なメッセージソングなのです。

奇妙礼太郎の方が、中島らもが歌うより、よりメジャー感があり、より広い層に伝わる様に思います(放送禁止なので無理か)。

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一般的にその知名度は、まだまだですが、2012年明治製菓のCMに始まり、20本以上のCMソングを歌っているので、その歌声は、知らず知らずのうちに多くの人が聴いているのでは?

CM制作に当たってのタレントの好感度リサーチは、もっともシビアだと聴いたことがあります。そこでこれだけの需要があるのは、その歌声と楽曲(オリジナル曲も多い)が、いかに短時間で好感度を持って伝わっているのかを物語っています。

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2017年9月13日(水)に、メジャー1stフルアルバム『YOU ARE SEXY』がリリースされることが決定しているそうです。 もしかしたら、星野源のように大化けして、一気にメジャー舞台に躍り出るかも!(無理かなぁ)

なにはともあれ、もっともっと沢山の人に知ってほしいミュージシャンの一人です。

歌の合間に、ものすごく良い表情を見せるので、この人、もしかしたら役者も出来るのではと、密かに思っているのですが…。

おしまい