《トムウェィツ》究極のロマンチスト。そのしわがれ声から放たれる、叩き付けるような メルヘン。

トムウェイツ

トムウェィツの放つ、ジンタやチンドンを匂わせる多国籍ごった煮ミュージックは、流浪の民ジプシーの哀愁にも似た、 とらえることの出来ない原初の感情の「それ」に似たもの…。

世間では、トランプ大統領誕生に大騒ぎの中、同じアメリカ人というだけの薄〜い繋がりで、無理矢理に、トムウェィツ のお話です。

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トムウェィツを知ったのは、ジム・ジャームッシュの映画『ダウン・バイ・ロー』の公開時で、調べると1986年とありますので、もう30年も前になるのですね。

当時は映画監督ジム・ジャームッシュの大ファンで、『パーマネント・バケーション』『ストレンジャー・ザン・パラダ イス』のストーリーの起承転結よりも、スクリーン全体に漂うイメージを重視し、どこか観客を突き放したような不条理感や、感情を抑えたその表現は、不思議な心地よさと美しさを感じさせてくれ、大変魅了されていました。

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『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で主演のミュージシャン・ジョン・ルーリーは、自分のグループ「ラウンジ・リザーズ」を自身で「フェイク・ジャズ」(インチキジャズ)と揶揄するようなおかしな人で、ノイズ系でフリージャズ寄りのサックス吹きで、面白い音を出す人でした。

で、『ダウン・バイ・ロー』トムウェィツ。 冒頭、トムウェィツの「Jockey Full Of Bourbon」のナンバーをバックに、ニューオーリンズのダウンタウンの街並を車から平行移動で撮影されたモノクロの映像が流れ出した瞬間、何だこの歌は!誰だ、このしわがれ声は!と思わず叫びたくなるほどの衝撃を受け、さらに、その映像の美しさも去ることながら、トム・ウェイツ、ジョン・ルーリー、ロベルト・ ベニーニ(映画「ライフ・イズ・ビューティフル」の監督・主演)の三人のキャラクターの面白さに完全にやられちゃいました。

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予備知識ゼロの状態で映画館に入った事も相まって、初トムウェィツの体験は、音楽大好き人生の三本の指に入る程の衝撃。それからというものCD買いまくり聴きまくりで、一時期はトムウェィツ一色の生活を送っておりました。 ロック、カントリー、フォーク、ブルース、ジャズ、ラテン、ジプシー等、何でもありの音楽に、使用する楽器も多岐にわたっており(時には、ガラクタもパーカッションとして使用)、ホンキートンクピアノよろしく、あえてチューニングを ズラしたような枠にハマらない音の上に、あのしわがれ声が乗ったらもういけません。はい、ど真ん中ドストライクでし た。

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その後のジム・ジャームッシュの映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』でも音楽を担当しており、これも素晴らしい。 トムウェィツの優しくも悲しいロマンチズムに触れることの出来る作品です。また、ハーヴェイ・カイテル、ウィリア ム・ハート主演の映画『スモーク』のラストのクライマックスは、トムウェィツ『Innocent When You Dream』という曲と相まって、ここを見るだけでお金を払ってもいいと思える程秀逸。映画史上屈指のラストシーンは、嘘か本当かわからない、クリスマスの悲しくも優しい物語。

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この映画に登場する人物は、皆さんと同じ様に、胸に何らかの傷を抱えながら生きています。そしてその時々には、悲しい嘘もつくもの。その嘘を嘘とわかりながらも、そっとしておいてあげる優しさや距離感。その心地よさが全編を通して漂います。

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物事は嘘か本当かはそれほど重要ではなく、その事象に対して、何をどう感じ、どう思ったか。その感覚や記憶が真実であり、結果的にその真実は受け手の数だけあるのでは? そう思わせてくれる映画でした。

映画『スモーク』トムウェィツの音楽も、優しさ、切なさ、やり切れなさを抱えながらも、懸命に生きている人たちに、それでも生きて行くに値するほどこの世界は美しい『What a Wonderful World』というメッセージを投げかけます。 トムウェィツの音楽を語るつもりが、映画の話になってしまいました。

長くなりそうなので、この続きは、またの機会に。