《谷山浩子》の《谷》と《山》 夜の公園で絶望と希望にゆれるブランコ。その狭間で点滅する生の醜さ美しさ。

谷山浩子

この世界に生まれたがために味わう残酷さと慈愛。自身(宇宙)の心の中の矛盾と葛藤は、感受性が鋭ければ鋭いほど鋭利な刃となって、自身(宇宙)の闇をえぐります。《谷山浩子》の《谷》と《山》。解読不可能なリアリティーとファンタジー。

ツービートの全盛期。1981年に、革命的ともいえるラジオ番組《ビートたけしのオールナイトニッポン》の放送が開始されます。深夜1時からの2時間、全編躁状態のマシンガントークで突っ走るビートたけしのエネルギーがほとばしります。当時の最先端のお笑いのエッセンスがギッシリ詰まったこの番組は、その後活躍する若手芸人のほぼすべてに影響を与えたといっても過言ではないでしょう。

で、ペンペン草も生えないほどに、たけし一行に場を徹底的に荒らされた後、3時から始まる第2部が、《谷山浩子のオールナイトニッポン》でした。

からす

躁から鬱へ、枯草の荒野にポツンと佇むこけし人形・谷山浩子、

かわいそすぎるやろーーっ!

ほぼ誰からも期待(ディレクターや構成作家さえも)されない時間帯での捨て番組で、誠心誠意頑張るこけし人形・谷山浩子、

かわいそすぎるやろーーっ!

そもそもが喋りは苦手。それでも中島みゆきにならった痛いほどのハイテンションで喋り続けるこけし人形・谷山浩子、

かわいそすぎるやろーーーーーーーーっ!!!!!!

ハイ。このような劣悪な条件下で、けなげにも一生懸命にDJをこなす《谷山浩子のオールナイトニッポン》だったのですが、何故か僕の中で無視できない番組となっていき、そのうちに最後まで聴くようになるのです。当時盛んに喋っていたのは中島みゆきの話題(仲良しだったみたい)と、当時大ヒットした《待つわ》を歌ったグループ・あみんの話題。あみんのグループ名は自分が名付け親だと、嘘か本当かわからないことをほざいておりました。

からす

それまで僕は、谷山浩子のことはまったく知りませんでした。そして気弱そうな細い声と、どこか安定しない発声で歌われる歌声は、そんなに好みではなかったのです。 しかし、童話の様なメルヘンチックな曲を聴くなかで、時々、メルヘンでは済ませれないどす黒いリアリティーみたいなものが垣間見れ、「えっ!」と聞き直したくなるようなフレーズが耳をつくのです。

《谷山浩子のオールナイトニッポン》のテーマソング《てんぷら☆さんらいず》から聴き始めた僕は、当初、取るに足らない、メルヘン歌手谷山浩子の認識だったのですが、比較的明るい歌の《てんぷら☆さんらいず》にしても、その歌詞をちゃんと読んでみると、「なんじゃこいつ!こわっ!」となるのです。

初期の《お早うございますの帽子屋さん》や、NHK《みんなのうた》で放送された曲なんかを聴いて騙されておってはいけないのです。 《河のほとりに》で抒情的なラヴソングを聴いた後、《窓》を聴いたときは痺れました、泣きました。泣きぬれました。

思春期に差し掛かるころの、研ぎ澄まされキラキラした感受性や、何処までも広がる夢想癖。それらすべてが成長するにしたがって破壊されてゆく、もしくは自ら手放さざるを得なくなりつつある、とりとめのない不安感と恐怖心。そのような漠然としたものを抱えながら、僕は教室の窓から光り輝く外の世界を眺めます。しかし、ひとたびその光り輝く外の世界に出てしまえば、煌めく夢の世界が、あがなえない現実にむしばまれて行き、今確かにここにある《その感じ》の僕には二度と戻れないのです。

《僕とは何か?》を問い続けるモラトリアムの時代の恍惚と不安。これを見事に表現した名曲《窓》。これを聴いたとき、このお姉ちゃんただものではないなと確信するのです。

ここからは夢想、空想、妄想、幻想の、ファンタジーの世界へまっしぐら。NHK『みんなのうた』から生み出された、全国の谷山浩子チルドレンは、否応なしに次々と暗黒の底なし沼へと引きずり込まれてゆくこととなるのです。

からす

谷山浩子をご存じない方でも、その楽曲は何処かで耳にしているはず。NHKの『みんなのうた』で採用された何曲かの歌や、サクロンのCMでおなじみの《風になれ》。そしてスタジオジブリゲド戦記挿入歌《テルーの唄》斉藤由貴《MAY》などを聴けば、「知っとる!知っとる!」となるはず。

しかし、谷山浩子にもっとハマってゆけば、何処までも深く暗い《谷》底と、何処までも高く神々しい《山》頂に誘ってくれるのです。

この《谷》と《山》を《浩》くあわせもった《子》が、谷山浩子なのです。

からす

《谷》山浩子の場合

《きみが壊れた》

これは《窓》にも通じる世界観で、感性で通じ合っていたが、継続や所有という欲望が介入したことによって、言葉で確かめざるを得ない渇愛と変わってゆく様を歌っています。キラキラとした感受性は、他でもない自身の継続や所有という欲望によって、ガラスのように砕けてゆくのです。こわいですねーーっ、谷山浩子

《時の少女》

これ、深夜ラジオで聴いたとき、「怖い、怖すぎるやろーーっ!」と叫びます。イントロのコーラス、♪あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ は、何なんでしょうか浩子さん。あがなえない運命の川に引きずり込まれ流され溺れてゆく、僕たちの悲鳴にも似た……♪あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ あ~ぁ

《夜のブランコ》

「谷山浩子が中島みゆきになってもうた!」と、心の中で思わず叫んでしまったのが《夜のブランコ》なのですが、1994年リーリースの曲だったのですね。谷山浩子版・ド演歌!

何があった!谷山浩子!

《片恋の唄》 病的な情念の片想い。再び「怖すぎるやろーーっ!」と叫ぶ僕。 こけしみたいな顔してメルヘン歌っとるかと思えば、いきなりこんなに深い情念を放てるほどにリアルな曲をつくれる、何処までもディープな、これまた谷山浩子版・ド演歌なのです。

谷《山》浩子の場合

《風になれ》

はい、先ほど紹介いたしました《サクロン消化薬》のCMソング。おやすみ前の空腹時が効果的。この曲を聴けば、今日一日で、溜まりに溜まった心の痛み、心の闇を効果的にやわらげてくれます。

《河のほとりに》

少女のような瑞々しい恋心が、森羅万象と溶け合います。

からす

そしてそして、僕が一番大好きな曲。遥かなる時空を越えて地球生命の誕生もしくは宇宙の誕生にまでに広がる、壮大なラヴソング。

《海の時間》

ずっときみとこうしたかった 寒い夜にベッドの中で

頬と頬をくっつけあって 雨の音を聴いているよ

きみの中指にキスをして きみの髪に顔をうずめて

きみをほんとにダイスキだよ 何度言っても言いたりない

あかりを消して 息をひそめて 

はじまるよ 静かにね

ぼくたちのベッドの船が

今 すべりだした  

時を超えて

ごらん とてつもなく背の高い 不思議な樹が伸びていくのを

不思議な樹の大森林が 胞子の雨を降らせている

遠い昔の植物たちの 淡い夢が 空をうずめて

とても小さなぼくときみは 空を見ている水の岸辺

それから時を さらにさかのぼり

たどりつく 船は今 海の底

気の遠くなるような 長い長い 

海の時間

揺れる海百合 三葉虫 ぼくときみの境目もなく

漂うだけ 無限の現在を どんな言葉も ここにはない

水が命を うみだすように 森が息をするように

星が生まれ 死んでいくように ぼくたちは 恋をする

ずっときみとこうしたかった 冷えた肩を手で温めて

もっともっと やさしくしたい もっともっと 夢の中まで

ずっときみとこうしたかった きみの髪に顔をうずめて

きみをほんとにダイスキだよ 何度言っても言いたりない

ずっときみとこうしたかった きみの髪に顔をうずめて

きみをほんとにダイスキだよ 何度言っても言いたりない

からす

どうですか?

素晴らしい歌でしょう?

これを男女のベッドの中のSEXを描写した歌だと解釈する人もいるようですが、もちろんそれもありなのです。谷山浩子本人は否定するかもしれませんが、どんなジャンルでも、人が真剣にものを創作する限りは、本人も自覚しないうちに潜在意識の領域に入り込み、もっと言えば宇宙的無意識の領域にまで精神が開かれ、そこから生み出される歌や詩もあるのです。

そこには男女のSEXも当たり前のように含まれ、だからこそ、宇宙的な広がりが生まれ、小さな小さな取るに足らないラヴソングが、このように時空を越え普遍性を帯びた、壮大なラヴソングとなりうるのです。その世界は、森羅万象すべてにエロスが匂いたち、そのエロスから歌がうまれ、物語が語られるのです。

人を本当に深く愛し身も心も一体となった時、相手の命と溶け合いながら、必然的に母胎の羊水に浮かぶ胎児に戻り、さらに進化の過程の時間を逆に進みながら生命の根源にたどり着きます。

そのサイクルを幾度となく繰り返していくうちに、宇宙そのものの成り立ち(神)を本能で感じ、その瞬間その愛は、歓喜の歌を奏でるのでしょう。 究極のオーガズムとは、宇宙と溶け合う事。その旋律(メロディー)は至福の波動。

谷山浩子の命の底から奏でられた歓喜の歌《海の時間》なのでしょう。

可愛い顔した谷山浩子は、壮大な《ブラックホール》《ホワイトホール》の宇宙を合わせ持った、バ・ケ・モ・ノの子だったのです。

からす

最後に、今回この記事を書くにあたって、YouTubeに上がっている映像を色々と見直したのですが、一つ面白いのを見つけました。

谷山浩子のファンの方なら、既にご覧になられているかもしれませんが、TV番組《鶴瓶の音楽に乾杯》に出演した時の谷山浩子の映像。

まだオールナイトニッポンをやっている時代のもので、デビューからの興味深いお話が聞ける貴重なもの。その中で少女時代、ザ・タイガースの大ファンで、その楽曲が大好きだったという話で盛り上がり、その流れで明治製菓の景品で、カラーレコードなる非売品のジュリーのレコードが紹介されるのです。

これ、知ってるんです僕。家にあったんです、この小さなカラーレコード。

当時、ジュリー狂の母親が応募しないわけがないのです。一時期、貧乏な我が家のおやつが、何故か明治チョコレート三昧だった時期があったのを今思い出しました。子供の僕にとってはありがたいことで、何の不満もなかったのですが…。

谷山浩子は、その中の楽曲《タイガースの子守唄》が大好きだったそうで、なんと!その曲をピアノの弾き語りで歌ってくれているのです!

「あーーーっ、これわし知っとる!知っとる!」と一瞬は喜んだのですが、「わし、なんでジュリーのこんな曲まで知っとるんやろう?」と母からの洗脳の怖さを思い知らされ複雑な気持ちに…。 しかし、楽曲は素晴らしく、世に出なかったのがもったいないと思うほどのもの。

そしてそして、谷山浩子の弾き語りがこれまた素晴らしすぎた! 完全に谷山浩子の世界。
何の違和感もなく自身の曲と思えるほどに仕上げているのです。

19:23頃から始まりますので、是非ご覧ください。

おしまい

『《谷山浩子》の《谷》と《山》 夜の公園で絶望と希望にゆれるブランコ。その狭間で点滅する生の醜さ美しさ。』へのコメント

  1. 名前:TomoQ 投稿日:2019/08/24(土) 03:57:06 ID:13e6cde97 返信

    「夜のブランコ」の1994年版、つまりアルバム『銀の記憶』の先行シングル版は新アレンジです。オリジナルは、1984年のアルバム『水の中のライオン』に収録されています。

    1994年版は、当時中京テレビがクロージング(放送終了時のコールサイン)映像に使っていて、名古屋に住んでいた私も「なんちゅう選曲やねん!」と思ったものです。

    また、この曲は、斉藤由貴さんがコンサートツアー「one ▶︎ two」(平成元年〜2年)で歌っていて、「自分のコンサートで他の方の曲を歌うなんて、と思ったのですが、この曲は歌わざるを得なかった」とまで言っています。

    怖いですねぇ〜。

    なお、谷山さんの旦那さんが今年2月に亡くなられました。
    NHKみんなのうたの「花さかニャンコ」で公に復帰というところでしょうか。

    この曲を含むアルバムの最後「家族の風景」(手嶌葵さんへの提供曲)をどう歌いこなすか。泣いてしまいそうです。
    https://www.yamahamusic.co.jp/s/ymc/discography/1031

    • 名前:60カラス 投稿日:2019/08/24(土) 22:28:32 ID:8790c5331 返信

      TomoQ様

      コメント有難うございます。

      オールナイトニッポン第二部で知った谷山浩子は、それ以後しっかり僕の心のひだの隙間に隠れて膝を抱えて座っており、僕の人生の所々でその歌声が何処からともなく聞こえてきます。

      《夜のブランコ》のオリジナルは1984年に発表されていたのですね。し、しかも斉藤由貴がカヴァーしていたとは……。

      怖いもの見たさで非常に興味が湧いたので、聴いてみようと思います。

      NHKみんなのうたで復帰されたとのこと。
      これからもまだまだ、内に秘めた《谷》と《山》を聴かせてくれることでしょう。

      当ブログの谷山浩子の記事は、いまだにコンスタントにアクセスがあり、TomoQ様のようなコアなファンが沢山いらっしゃることを知り、改めてその才能に深くリスペクトしなおしているところでございます。

      今回は、色々な情報を教えて下さり、ありがとうございました。

  2. 名前:hippy 投稿日:2018/11/18(日) 17:26:35 ID:61a15d8c8 返信

    ノラ、ジョーンズのスモーキーな感じ良いですね。まったりと癒されます。ビジュアルも相当可愛いし…
    是非是非、お願いします!

    • 名前:50カラス 投稿日:2018/11/18(日) 21:04:21 ID:5dd39b2af 返信

      そう、エンターテーメントはビジュアルが命! これも一つの才能ですよね。
      人様にお見せできるものを何も持たない僕が言うのだから間違いありません!

      それではhippy様、ノラジョーンズの黒い瞳に乾杯!

  3. 名前:hippy 投稿日:2018/11/17(土) 21:24:27 ID:655d2612e 返信

    こんばんわ。
    秋の夜長に、何とも言えないノスタルジックな気分になりました!
    いつも素敵なお話ですね。
    「谷山浩子」さんは、記憶の何処かにあってYOU TUBEの楽曲を聴いても、ハッキリとは思い出せませんでしたが…
    とても澄んだ歌声ですね!沁みましたよ〜

    ピアノの弾き語りと言えば、「キャロル・キング」や「ロバータ・フラック」を好んで聴いてました。
    次回も、楽しみにしてますね!

    • 名前:50カラス 投稿日:2018/11/18(日) 10:11:06 ID:5dd39b2af 返信

      hippy様 いつもコメント有難うございます。

      《谷山浩子》の楽曲は、昔から何故か気になってしまう不思議な魅力があるのです。
      キャロル・キング、ロバータ・フラック、懐かしーーーっ。
      僕らの世代は本当によく聞きましたよねぇ、ネスカフェなんか飲みながら…。
      僕も大好きです!
      やはり、何時の時代も音楽は、僕たちの人生を豊かにしてくれますよねぇ。

      今度いつか、ノラジョーンズの戯言をやってみようと思うのですが…。