名曲《東京ブルース》 日本が誇る四人の女性歌手のバージョンを独断で選出し聴き比べ。好き勝手に、あーだこーだゆーてみます。

東京ブルース

日本演歌の定番となった、珠玉のフレーズ満載の名曲《東京ブルース》 一流歌手がカバーしたとき、それぞれが独自の物語を僕たちに見せてくれ、単なるカラオケには絶対にならないことを痛感するのであります。  

《東京ブルース》 

作曲:藤原秀行 作詞:水木かおる

泣いた女が バカなのか
だました男が 悪いのか
褪せたルージュの くちびる噛んで
夜霧の街で むせび哭く
恋のみれんの 東京ブルース

どうせ私を だますなら
死ぬまでだまして 欲しかった
赤いルビーの 指輪に秘めた
あの日の夢も ガラス玉
割れて砕けた 東京ブルース

月に吠えよか 淋しさを
どこへも捨て場の ない身には
暗い灯かげを さまよいながら
女が鳴らす 口笛は
恋の終わりの 東京ブルース

からす

どーですか皆さん! この歌以後の演歌の定番となってるフレーズのオンパレード! 戦後日本演歌最強のスタンダードナンバー、東京ブルース!! その後の演歌の歌詞によく出てくるフレーズをこの歌詞からあげてみますと、

泣いた女 

バカ

だました男

褪せたルージュ

夜霧の街 むせび哭く

恋のみれん

赤いルビー

指輪

あの日の夢

月に吠えよか

淋しさ

暗い灯かげ

さまよいながら

恋の終わり

からす

歌詞の内容は、どう考えても気質の女性とは思えません。演歌の定番、ネオン街のお姉様。そして、これ又演歌の定番で、悪い男に騙されて捨てられてしまいます。褪せたルージュとはどのような赤なのでしょう。その赤い唇を噛みながら、なんと夜霧の街(銀座か、原宿か、有楽町か)でむせび泣いてしまうのです。そう、むせび泣くのですよ皆さん、夜霧の街でむせび泣いているお姉さん、見たことありますか? そうそうお目にかかれるものではありません。

更にこのお姉さん、死ぬまでだまして欲しかったと嘆きながら、男から貰った赤いルビーまでも偽物とわかり、逆上してあの日の夢と一緒に投げ捨て、叩き割ってしまうのです(そこまで言っていないか…)。 そしてとうとう気でも違えたか、な、なんと月に吠えようとします、淋しさを犬の遠吠えに置き換えて……。

その後、野良犬のように暗い灯かげをさまよいながら、なぜか今度は口笛を鳴らします。こんなズタボロになって普通口笛なんて鳴らせません!

もうメチャクチャなのです!

忙しいのです!

やけくそなのです!

恋の終わりの東京ブルースは!!

※けっしてディスっている訳ではありません。僕、ほんとうに大好きなのですこの歌。

からす

という訳で(どういうわけだ?)、僕の大好きな《東京ブルース》を歌った、4人の女性歌手をフューチャーして、それぞれの歌手が紡ぐ物語を勝手に創作。異論も限りなく御座いましょうが、一切無視して書き散らかすことに致します。

からす

《西田佐知子》

まずはオリジナル、西田佐知子バージョン。リリースは、1964年1月。その年は東京オリンピックの開催される年で、「東京〜」や「〜東京」という楽曲が沢山発売されたそう。《東京ブルース》は、作詞:水木かおる、作曲:藤原秀行のコンビによるもので、代表曲《アカシアの雨がやむとき》も手がけたコンビなのです。

西田佐知子の声は何処か退廃的なイメージで、独特の歌いまわしはオンリーワン。更にはノンビブラートの歌唱法は何処か気品さえ感じられるのです。この人が歌うと演歌には聴こえず、西田歌謡曲と言う一つのジャンルとして聴こえてきます。

ここで歌われる主人公は、そこそこの学があり育ちも良いのですが、ちょっとアウトローな魅力に溢れた男に引っかかり夜の世界へ。銀座の高級クラブのホステスをやりながら男に貢いでいたのですが、直ぐにその男には捨てられます。そんな折、常連客の一人の高級役人に見初められ、結婚の約束までしたのですが、その男性は妻子持ちで愛人に。そのうち出世の妨げになると手切れ金を渡され縁を切られてしまいます。そして夜霧の街でむせび泣き、暗い灯かげで、月に吠えます。 そう、恋の終りの東京ブルースはせつないのです。(僕にはそう聞こえたんだからしょうがない)

一番の歌詞、“泣いた女がバカなのか だました男が悪いのか”のフレーズが、ゲスっぽく聞こえないのがこの人の持った上品さなのでしょう。

《藤圭子》

はい、宇多田ヒカルのお母ちゃんの登場です。このお母ちゃんの歌う《圭子の夢は夜ひらく》を始めて聴いたとき、「どこまで暗いねん!」と、思わず関西弁になるほどの衝撃でした。 なんせ、十五、十六、十七と、私の人生暗かったとハッキリ歌い上げます。そして、過去はどんなに暗くとも圭子さんの夢は夜ひらくのですから!

元来、精神的に不安定な所があり、その晩節は哀しいものがありました。余談ですが、宇多田ヒカルの楽曲《花束を君に》は、晩年疎遠になっていた、母・藤圭子に感謝気持ちを送ったものなのだそう。良い曲ですね。

このお母ちゃんの全盛期は、独特のハスキーボイスと日本人形のような澄み切った容姿で、その儚なげな精神性と相まって、幽界を感じさせる美しさでした。この人が《東京ブルース》を歌うと、情念のド演歌ブルース。しかしながら汚くないのです、美しいのです。妖艶な日本のブルースシンガー、藤圭子ここにありなのです。

幼い頃から、浪曲師の父と三味線奏者の母に連れられ、長い間のドサ回りの経験で染み付いた元来の流れ者気質。当然場所は、寂れた温泉街の場末のスナック。客足もまばらで、還暦過ぎたママ一人で細々と営業しております。働かせてほしいと突然現れたこの女性を一目見るなり、この界隈では滅多にお目にかかれない程の美人とあってママは大喜び。彼女は住み込みで働き始めます。

謎に包まれた彼女の過去は、誰も聞こうとしないのですが、実は前科者。過去に、クズな男性とのもつれから刃傷沙汰となり刑務所へ。出所後この街に辿り着き、心機一転、気質に暮らし始めるのですが、何処で調べたのかそのクズ男が彼女の店に現れます。今で言うストーカーなのですな。彼女は、男に過去を吹聴されこの街にもいられなくなり、逃げるようにして東京へ戻ることとなるのです。 そして夜霧の街でむせび泣き、暗い灯かげで、月に吠えます。(僕にはそう聞こえたんだからしょうがない)

藤圭子にとって、三番の歌詞“どこへも捨て場のない身には” のフレーズは、哀し過ぎます。

妖艶な日本のブルースシンガー・藤圭子よ永遠に…。

《ちあきなおみ》

1992年9月、最愛の夫を亡くして数日後、突然の芸能界引退を宣言。それ以後公の場には一切姿を見せず、ファンは二度とその歌声を聞くことが出来なくなります。日本歌謡界において一二を争う程の歌唱力と表現力。未だ根強いファンが復帰を待ち望んでいますが、それは叶わぬ夢なのでしょう。

僕も一時期、しっかりハマって聴きあさったのですが、その表現力には脱帽しました。普通、歌手が歌をうたう場合、物語をある程度俯瞰した距離感で語るのでしょうが、ちあきなおみ姉さんは違います、その主人公が乗り移ったかのようにどっぷりと入り込み(憑依されている?)鬼気迫る歌唱で、聴くもの見るものを圧倒するのです。

女を歌わせたら右に出るものはおりません。浅川マキ作詞の《朝日の当たる家》を歌う、ちあきなおみの迫力、そして説得力、そして女の情念の凄まじさは圧巻!《四つのお願い》《X+Y=LOVE》なんか歌わせている場合ではなかったのです! そしてもっとも恐怖を感じるのが、東北のフォークシンガー・友川かずきが提供した楽曲《夜へ急ぐ人》。な、なんとこの歌を紅白でも歌っているのですよ! 怖い物好きの人は必見です。

日本の誇るソウルシンガー・ちあきなおみは、引退して20年以上過ぎた今なお、その魅力は再評価され続けておるのです。

で、《東京ブルース》

シュチュエーションはやはり、紳士の社交場・グランドキャバレー。主人公はそのキャバレーの専属歌手。毎晩酔っぱらいの男性客の前で、淡々と演歌や歌謡曲を虚空に向かって歌い続けています。どんな男に抱かれても、その虚空を埋めることは出来ません。自分を通り過ぎた男達すべてに対する恩讐と懺悔。 むせび泣きながら、そして時には吠えるように歌い続けます。埋めることの出来ない胸にぽっかり開いた虚空は、遠い昔、故郷で捨てられた初恋の男への慕情だったのです。 そして夜霧の街でむせび泣き、暗い灯かげで、月に吠えます。(僕にはそう聞こえたんだからしょうがない)

三番の歌詞、“月に吠えよか 淋しさを”のフレーズは、ちあきなおみが歌うと、全く違和感なく聞こえてきます。

東京ブルースA

音の書2

http://utautushi.gift-kou.com/

《桂銀淑》

最後は韓国出身の歌姫、桂銀淑。 僕、この人の歌声大好きなのです。どんな歌をカバーしても、原曲に引きずられることなく桂銀淑の世界を作り上げる実力は素晴らしい! やはり半島の人達の生命力はハンパありません。随分前にこの人の記事を書いているのですが、その魅力は、声質と歌唱力。しかし、2008年に覚醒剤所持で、韓国へ国外退去処分にさせられます。その後、韓国で歌手活動再開しますがまたしても、覚せい剤使用で逮捕されます。そして、2016年に再始動するのですが、日本ではもう二度とその歌声は、聴くことが出来ないのでしょうか。

随分前、NHKの歌番組で 、今は亡きピアニスト・羽田健太郎のピアノ伴奏とジャズアレンジで、この《東京ブルース》を歌った桂銀淑。ジャズ好きの僕としては、至高のひと時でした。

ジャズなのです。

ブルースなのです。

この歌でブルースを感じたのはこのときが始めてでした。

東京の高級ホテルのラウンジで、オシャレで粋に、この重い歌を軽ーーく歌っている主人公の女性歌手。たまたまそのホテルに現れた音楽プロデューサーに見いだされメジャーデビュー。曲はヒットするのですが、世間知らずで繊細な心を持つ彼女は芸能界に翻弄されながら、男、金、薬で身も心もボロボロになり、追い打ちをかけるようなスキャンダルで、すべてを失ってしまうのです。沢山の悩みと苦しみは続いているのですが、歌っている時だけは、すべてから開放され達観したように歌います。女の幸せをすべて諦め、歌だけを生き甲斐として生涯歌い続けるのです。 そして夜霧の街でむせび泣き、暗い灯かげで、月に吠えます。(僕にはそう聞こえたんだからしょうがない)

一番の歌詞、 “褪せたルージュの くちびる噛んで  夜霧の街で むせび哭く” のフレーズがぴったりハマる桂銀淑。もうハッキリとその映像が僕の眼前に浮かび上がります。

からす

以上、《東京ブルース》四者四様の、月に吠えたくなるような素晴らしさでした。

おしまい