あぁ麗しの昭和歌謡曲② 高田恭子《みんな夢の中》 狂おしいほどに切なくなる、浜口庫之助のメロディーと詩情。

高田恭子

何度聴いても、その度に感じる切ない程の慕情と郷愁。昭和歌謡の隠れた名曲《みんな夢の中》。浜口庫之助のメロディーに高田恭子の歌声が響くと醸される、この説明不能ななつかしさは、いったい何処から来るのか?

あぁ麗しの歌謡曲第二弾、高田恭子《みんな夢の中》の登場です。

はじめてラジオから流れてくる《みんな夢の中》を聴いたのは、僕が小学校上学年の頃で、すこし年のいったお姉さんが、聴いてはいけない秘密のお話を語っているような、ちょっと淫靡な歌に感じた記憶があります。しかし最初からなぜか懐かしく、心が溶けてしまいそうに感じ、早熟な少年の感性には刺激的な曲で、オッサンになった今でもそのイメージが抜けません。もしかしたら一番好きな昭和歌謡曲かも…。

からす

当時から大好きだったのですが、40代後半になった頃から増々大好きになっていき、当時の風景や匂い、光や風を情感を伴って思い出され、何とも言えない深い郷愁を感じるのです。

高田恭子は、もともとフォークソング出身で、マイク真木のグループにいた事もあるそうです。その後、独学でカンツォーネを習得した後、《みんな夢の中》で待望のソロデビューを果たします。

当時の僕は、演歌のお姉さんが歌っていると思い込んでいたので、紅白歌合戦に初出場し、ミニスカート (こんな所だけは鮮明に記憶している)で現れた時は、けっこう若くて美しいのにビックリしました。

からす

独特の声質(ちょっとおばさん声)と粘りまくる歌唱法で歌われるこの曲は、不思議な世界観を醸します。テンポに乗っかったり、遅れたり、くい気味だったりと、この人ならではのグルーブ感は、独学で学んだカンツォーネの影響なのでしょうか?

その後この名曲は、沢山の歌い手さんにカバーされるのですが、どこかやさぐれていて、背徳の匂いのする(もちろん良い意味で)高田恭子のオリジナルを凌駕する物は無いように思われます。

からす

儚い恋物語。傷ついてしまった恋心を懸命に癒すため、夢の中の物語として無かった事にしようとする女心は、ファンタジーとしてもあまりにも悲しすぎる物語。また、 何処までもファンタジーを演出する詩、曲、アレンジ、そして独特のエコーのかかった歌声は、現実味が薄く、物語をより一層、夢の中のイメージに近づけてくれます。

やっぱり、昭和歌謡の世界はシンプル&ストレートで良いですね。昭和歌謡の特徴の一つとして、イントロの覚え易さ馴染み易さがありますが、この曲のイントロも凄く印象的なメロディーで、イントロを聴くだけで、聴き手は物語の雰囲気をイメージでき、すんなりとその世界に入ってゆけるのです。

からす

この名曲の作詞作曲を手がけたのは、昭和歌謡曲の名クリエーター、浜口庫之助。 昭和を代表する作詞・作曲家、浜口庫之助は、数々のヒット曲を世に送り出し、僕たちを楽しませてくれました。

好きな曲は沢山ありすぎて、紹介しきれないのですが、中でも大好きな曲は、

《夜霧よ今夜も有難う》石原裕次郎

《黄色いさくらんぼ》スリーキャッツ・ゴールデンハーフ

《夕陽が泣いている》ザ・スパイダース

《もう恋なのか》にしきのあきら

《恍惚のブルース》青江三奈

《人生いろいろ》島倉千代子

楽曲は多岐にわたっているのですが、特に《もう恋なのか》の胸にジュンとくる、締めつけられる様な切ない恋心を表現したメロディーラインは、涙ものなのです。

浜口庫之助の詩情豊かな歌詞が、より情感の伴ったメロディーラインに乗って、昭和の歌い手さんの卓越した歌唱力で歌われた時、理屈抜きに聴き手の心に染み渡ってゆくのです。

からす

今の時代は、楽曲も複雑になりすぎて、詩とメロディーが一体となった情感をストレートに伝える曲が少なくなってしまいました。2.3曲を複雑にくっ付けたような曲に、ラップまで入れ込み、ジェットコースターのような忙しい曲も楽しくて良いのですが、たまにはストレートに美しい曲や、コテコテの演歌なんかがヒットしてもいいのにと思うのですが…。

既に歌謡曲を作れる作詞家や作曲家がほとんどいなくなった今、それを望むのも無理な話なのでしょうか?

♪冷たい言葉で 暗くなった夢の中   

見えない姿を 追いかけてゆく私  

泣かないで なげかないで  

消えていった面影も 

みんな夢の中

これぞ昭和歌謡曲!浜口庫之助、渾身の一曲《みんな夢の中》でした。

おしまい