AbemaTVから飛び出した平成最高のプロレス。その名は《格闘技代理戦争》 久々の心躍るプロレスは、なんと格闘技(真剣勝負)から生まれたのです!

格闘技代理戦争

面白い!! 久々にこんなに面白いプロレスを見ました。AbemaTVが毎週土曜日22時から放送している《格闘代理戦争・3rdシーズン》。UWF消滅以後、「プロレスは死んだ」と思っていた昭和プロレスファンのジジィ(僕)は、思わぬ所から新たなプロレスを見つけてしまったのです。

力道山亡き後の日本プロレス第二次黄金期。毎週金曜日夜8時、ジャイアント馬場アントニオ猪木の両雄は、三菱掃除機《風神》が綺麗に掃除したマット上で、屈強な外人プロレスラーと激闘を繰り広げておりました。 まだ壮大な幻想が保たれていた外人レスラーの恐ろしさ、不気味さ、大きさは、小学生低学年の僕を恐怖のズンドコに陥れるのでありました。

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当時来日していた外人レスラーは、冗談抜きでオシッコをちびるほど超絶怖かった。僕らのジャイアント馬場アントニオ猪木が、本当に殺されてしまうのでは?と、子供心にドキドキしながら白黒テレビを見守っていたのです。外人レスラーには必ず恐怖のキャッチフレーズが付けられ、本当に殺されてしまいそうな必殺技をそれぞれが有しており、より一層の恐怖心を煽ります。いまだに強烈に印象に残っている外人レスラーとその必殺技を上げてみますと、

鉄人 ルー・テーズ            バックドロップ

人間発電所 ブルーノ・サンマルチノ    ベアハッグ(ただのサバ折り)

白覆面の魔王 ザ・デストロイヤー     四の字固め

黒い魔人 ボボ・ブラジル         アイアン・ココバット(ただの頭突き)

荒法師 ジン・キニスキー         シュミット式バックブリーカー  

吸血鬼 フレッド・ブラッシー       噛みつき(もはや技でも何でもないんだけど、超怖かった!)

鉄の爪 フリッツ・フォン・エリック    アイアンクロー(顔面のこめかみをわしづかみ)

アラビアの怪人 ザ・シーク        キャメルクラッチ(コブラ固め)

人間台風 ドン・レオ・ジョナサン     ハイジャック・バックブリーカー

殺人鬼 キラー・コワルスキー       ダイビング・ニードロップ(耳削ぎ)

日本プロレス時代には、まだまだ沢山の個性的な外国人レスラーがいたのですが、思いつくところざっとこんな感じです。

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初来日のレスラーは、シリーズの前半戦に若手レスラーから中堅レスラーをバッタバッタとなぎ倒し、その強さを見せつけます。そしてシリーズ最終戦、エースのジャイアント馬場と戦う一週前に、二番手アントニオ猪木と激突。凄まじい試合で猪木の商品価値を下げないように、引き分けるか反則負け、もしくはリングアウト勝ち。 そしていよいよシリーズ最終戦で、エースのジャイアント馬場と激突します。

外人レスラーの得意技を食らって、のたうち回るエース・ジャイアント馬場。その破壊力はテレビで見ている僕たちにも伝わり、よりいっそうの声援をジャイアント馬場に送るわけです。今にして思えば、大人たちも薄々は気づいていながらも、けっこうマジで応援していたものです。僕の父親も大のプロレスファンで、通勤列車の車内で毎日スポーツ新聞《東スポ》を愛読しており、いつもズボンのけつポケットに《東スポ》を突っ込んだまま帰宅していたものです。

僕は《猪木血だるま!》の文字が躍るその新聞を見たくて仕方なかったのですが、母親に頑なに阻まれます。

何故か?

そう、1.2面は健全な?プロレス記事なのですが、最終面近くに凄まじくエロい記事があり、綺麗なうら若きお姉さんの、あわれもない姿の数々が掲載されておったわけです。 そう、こんなものが母親の厳しい検閲を通るわけはなかったのです。

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ここから日本プロレスは数々の分裂劇を起こします。まずは追放された(公金の横領)豊登猪木を引き抜き東京プロレスを旗揚げするもすぐに消滅。時同じくして取締役の一人吉原功が袂を分かち、新団体・国際プロレスを設立。その後、豊登国際プロレスに入団し、猪木は元の日本プロレスに戻るのです。 ここから馬場、猪木BI砲時代は続くのですが、またしても風雲児・アントニオ猪木が反旗を翻し新日本プロレスを設立。その後まもなくジャイアント馬場全日本プロレスを設立し、力道山が興した《日本プロレス》はここで幕を閉じます。

そして《全日本プロレス》《新日本プロレス》《国際プロレス》の三団体時代が始まるのです。

この辺りを詳しく書くと延々と長くなり終わりそうもないので、またの機会に譲りますが(けっこうおもしろい話が沢山あるのですが…)、当時の日本人レスラーもきわめて個性的で、キャラクターの宝庫だったのです。

当時、王道の馬場《全日本プロレス》の後塵を排していた猪木《新日本プロレス》は、なんとか馬場《全日本プロレス》に追いつこうと起死回生の矢を放ちます。そう、これが世にいう《世紀の凡戦》アントニオ猪木vsモハメッド・アリ戦だったのです。

以後、良くも悪くも世間の注目は猪木《新日本プロレス》に移るのですが、この一戦で莫大な借金を負ってしまった猪木《新日本プロレス》は営業上、苦肉の策で《異種格闘技路線》の道を突き進まざるを得なくなるのです。

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しかしながら、この《異種格闘技路線》の戦いの延長線上に、のちに旗揚げされる《UWF》があるのです。ここに至るまでの話も腐るほど面白い話があり、書き出すと終わらないので端折りますが、結果的にプロレス団体《UWF》が生み出した純粋な競技としての総合格闘技団体が、初代タイガーマスクこと、佐山聡の作った《シューティング(修斗)》と、船木誠勝鈴木みのるらが作った《パンクラス》の二つなのです。

その流れの中、《UWF》系のプロレスラー高田延彦《400戦無敗の男》ヒクソン・グレイシー《PRIDE》総合格闘技のセメント試合で激突し惨敗。しかしながらその後、弟分のプロレスラー桜庭和樹グレイシー一族をことごとく撃破し、プロレスファンの溜飲を下げ《PRIDE》全盛期を迎えることとなるのです。

《PRIDE》は、ほぼ格闘技だった(何試合か怪しいものがあったような…)のですが、僕にとっては《PRIDE》消滅(現在は《RIZIN》と名を変えて復活)までが大きな意味でプロレスだったのです。

ここで僕の中のプロレスは一度死にます。

で、いま日本で活躍する総合格闘家のほとんどが《UWF》から派生した《修斗》《パンクラス》の流れを汲んでおり、この《修斗》の出身の二人が、今回登場する桜井マッハ速人と、青木真也なのです。

やっとここまでたどり着きました(長いっちゅうーねん!)。皆さま、お疲れさまでした。

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それでは本題の《格闘技代理戦争》

プロレスや格闘技に限らず、ネットTVの《AbemaTV》の企画は攻めてますなーーーーーっ!(ほとんど見てないけど…) そのラインナップを見ただけでも、地上波では絶対に出来ない企画がゴロゴロ。 放送規制もゆるく、全面的にスポンサーに依存しなくていいネットTVは、今後10年の間に、地上波を軽く凌駕してしまうのではないでしょうか?

《格闘技代理戦争》はすでに3rdシーズンに突入しており、2rdシーズンまでは男子格闘家だったのですが、3rdシーズンで初めて女子格闘家の戦いが始まります(女性は心情がすぐに表情に出るので見ていて面白い)。番組の内容は、次世代スターを誕生させるべく、格闘技界のレジェンド選手がそれぞれ推薦選手(代理選手)を出し合い、トーナメントで戦わせる格闘ドキュメンタリー番組で、優勝すれば賞金300万円とMMAイベント『ONE Championship』との最高1,000万円のプロ契約が保障されている超太っ腹な企画なのです。

で、この企画がなぜ素晴らしいのか? 何処がプロレスなのかというと、レジェンドの格闘家と、その推薦選手の心情が画面から溢れ出ており、プロレスで一番大事な、選手に感情移入させる仕掛けが満載なのです。 レジェンドと推薦選手の組み合わせや、ある程度の流れやキャラクター設定の脚本はしっかり作られてはいるのでしょうが、試合に至るまでや、試合後の物語を丁寧に時間をかけて見せていく中で、作られた筋書きの中からもダラダラ漏れるリアリティーを感じるのです。此の辺り、何週にも渡って作り込んで行けるネットTV《AbemaTV》ならではの強み。

また、それぞれのレジェンド達の今まで知らなかった、あるいは見せなかった素の表情や性格が、同じようにダラダラと垣間見え、僕たち観客は試合に至るまでに、選手やレジェンドにしっかり心を乗せることが出来るのです。

レジェンド同士の相関図も作り込んでおり、格闘家でありながら番組の意図に沿ったキャラクターを演じるレジェンド達の演技も見ものなのです。

これをプロレスと言わずして、何をプロレスと言うのか?

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そこで桜井“プーさん”速人と、デビル青木のお話。

桜井“プーさん”速人は、もはや、シェイプアップされたカリスマ・桜井“マッハ”速人とは思えないほどの太り様。デビル青木から売れない演歌歌手と揶揄されてもしょうがない程のゆるさ加減。 久しぶりにその姿を見た瞬間、そこそこ歳のいった場末のプロレスラーか、もしくは事故を装い保険金を狙って入院しているタクシーの運ちゃんが暇に耐え切れず、いま病院を抜け出してきました的な佇まい。

どうしたんだ! 野生のカリスマ・桜井“マッハ”速人!!

若いときから天然の野生児で知られ、それなりに面白いキャラクターだったのでしょうが、正味、ただの《面白い太ったエロおやじ》に大変身。 道場と共に鍼灸整骨院も経営しており、格闘技の技術や体の骨や関節、筋肉などの知識は豊富なのでしょうが、いかんせん話がグダグダ長くてわかりにくい! どちらかと言えば天才型で、感性で語るタイプなので、推薦選手に語りかけても頻繁に「……?」状態に。

それに《修斗》系の選手はみなさんお洒落でかっこいいのに、桜井先生、超ダサい! 女の子から嫌われますよっ、ボディータッチも多いいし。

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そして同じく《修斗》出身で桜井の後輩、寝業師・デビル青木

若いころは平気で相手の腕を折ったり、試合後のリング上で暴言を吐いたりと、何かとトラブルメーカーだった青木真也。、廣田瑞人との試合で、関節技で躊躇なく腕を折り、その直後に中指を立てての挑発行為をやらかした試合を見た時、僕はゾッとして血の気が引きました。その時の青木の佇まいは間違いなくデビル(悪魔)に見えたのです。

その後、アントニオ猪木が興したプロレス団体《 IGF》に参加。 そこでプロレス(興行)とは何かの猪木イズムを叩き込まれたデビル青木は、総合格闘家でありながら、自己プロデュ―ス能力を身に着け、現在は理論武装をした論客の格闘家のスタンスを演じています。

しかしながらこの人の理論もよくわからず、猪木イズムのでたらめさ、いい加減さをしっかり受け継いでいるのです。《格闘技代理戦争》の中では、トリックスター的な役割で、一人でプロレスを誰彼構わずに仕掛けてゆくのです。演じずとも天然のプロレスラー、桜井“プーさん”速人デビル青木の絡みは、中途半端なグダグダ三文芝居なのだけれど、二人ともにキャラクターが際立っているために、見ていてけっして飽きないのです。

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この二人のプロレスラーに真面目実直な《リトル・グレムリン》宇野薫をカウンターとして当てながら明確なコントラストを見せます。また大先輩の《修斗のカリスマ》佐藤ルミナデビル青木がプロレスを仕掛けた時は最高でした。

デビル青木のプロレス的な仕掛けにマジでイラつき、しつこく絡むデビル青木に、最後まで一切乗らない《修斗のカリスマ》佐藤ルミナ。 さすが藤原紀香と寝た(適当に言っています。違ったらゴメンナサイ)だけのことはある。それでもプロレスを続けるデビル青木の表情が徐々に萎えていき、その心の折れかかった表情は最高のプロレスだったのです。

そして強烈な個性を放っているのが《ぬるぬる》秋山成勲! 素晴らしいキャラクター! 日本人離れした感性で番組を引っ掻き回す秋山成勲。この人もまた、この番組に絶対に必要なプロレスラーの一人なのです。

さらには、《グラバカ》菊田早苗! この人のプロレスラーとしての隠れた才能を引き出したこの番組の功績は絶大。アブダビコンバットで寝技世界一の称号を得ている《グラバカ》菊田早苗、実は超天然で最高のいじられキャラだったのです。

推薦選手が敗退したカリスマ三人の座談会兼、言い訳クレーム大会では、最年長にもかかわらず、両サイドに座る秋山成勲V.V Mei(女性格闘家)の二人に徹底的にいじられ、さらには番組プロデューサーにもさんざん突っ込まれた挙句、悪くもないのに、何度も謝り続けるという醜態をさらしたのです。

このくだりは最高に面白かった。その時気づいたのですが、仕切っているこの番組(プロデューサー)のスタンスは、僕には発刊当時の《紙のプロレス》の匂いがしたのです。

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「世の中と紙の上でプロレスをする」をスローガンに掲げ、あらゆる世間の常識にプロレスを仕掛ける最高にエキサイティングで革命的な雑誌だった《紙のプロレス》

僕は創刊号(A5判)からの大ファンで、この雑誌は、真面目一本やりで提灯記事しか書かなかった従来のプロレス雑誌に強烈なアンチテーゼを浴びせます。これまでになかった、自虐や笑いを含めたプロレス的な生き方を読者に指南するのです。

このプロレスの捉え方で世の中を俯瞰し、曖昧さやいい加減さを人生に持ち込み、何があっても「どうってことねえょ」猪木イズムをバイブルに、アホになって人生を謳歌しようとする《紙のプロレス》のスタンスは、以前、作家・村松友視《私、プロレスの味方です》の登場でプロレスファンを理論武装させた時と同等かそれ以上のインパクトを業界に与えた雑誌だったのです。

しかしながら、編集長・山口日昇が、金や女に目がくらみ、本業以外のプロレス興行(ハッスル)に手を出すという本物のアホになってしまい自滅。《紙のプロレス》以前、以後と言われるほどの(僕が勝手に言っています)雑誌を刊行する類稀な才能を持ちながら、本当に残念でならないのです。

《格闘技代理戦争》の制作プロデューサーは、この《紙のプロレス》の影響を確実に受けており、純粋な総合格闘技を使って、上質なプロレスを作り上げてしまったのです。 今、大変に盛り上がっている《新日本プロレス》に全く乗っかれない僕が、久しぶりにプロレスを感じたのは、この番組から《紙のプロレス》の匂いを感じたから。 徹頭徹尾、プロレスラーや格闘家をバカにしたスタンス(強烈なリスペクトの裏返し)で切り込むプロデューサーの態度は、間違いなく《紙のプロレス》イズムなのです。

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《格闘代理戦争・3rdシーズン》もいよいよ佳境に入り、準決勝、決勝と続くのですが、推薦選手の面々もそれぞれの個性が際立ってきており目が離せません。 最後まで真剣勝負の総合格闘技を繰り広げながら、最高のプロレスを楽しませてくれるはず。

またこの番組は、敗者にもスポットを当て、敗戦後も物語を語れそうな推薦選手には、再び何らかのチャンスを与えます。この辺りはまさにプロレスで、敗者も勝者と共に輝けるシステムを構築しており、観客が、魅力的な敗者にも感情移入できるように演出します。

これからはネットTVがプロレスをつくる時代。 企画・構成・演出、さらにはキャラクター設定に長けたプロデューサーが、番組の中で良質なプロレスを作っていくのでしょう。

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ダラダラと書きなぐって、言いたかったことの半分も語れなかったのですが、とにかく、

「《格闘代理戦争》は、間違いなく僕にとってのプロレスなのだぁーーーーーっ!!」

という熱だけは伝わったでしょうか?

何はともあれ、今後も、桜井“プーさん”速人と、デビル青木の中途半端なグダグダ三文芝居や、《ぬるぬる》秋山成勲の異質なオーラ。さらには、天然のプロレスラー、《すいませんでした》菊田早苗の面々からは目が離せないのです!

平成最後で最高のプロレス《格闘代理戦争・3rdシーズン》万歳!!

おしまい