アメリカの演歌、カントリー&ウエスタン。その大御所にして生粋のアウトロー。ネイティブアメリカンの血をも引くそのあたたかな歌声は、最良の時間を僕たちに与えてくれます。
まだ20代の頃、あくせく仕事をしながら繰り返し聴き込んだ、ウィリー・ネルソンの《スターダスト》というアルバム。
厭世感漂う歌声にもかかわらず、何とも言えない温かさと優しさに包まれ、「そんなにあくせく働かなくても、頑張って夢なんか追いかけなくても、十分幸せに生きて行けるのに」と、マリファナをふかしながら囁かれているようで、毎日仕事に追われ続けている日常に、違和感を覚えた記憶があります。
映画《ブルースブラザーズ》を何度もみる程(映画の中では、カントリーを馬鹿にしていた)、ブルースやジャズに傾倒していた時代に、カントリーなんてと、聴かず嫌いでいたのですが、やっぱり良いんですよカントリー&ウエスタン。
もともとフォーク少年で、小さい時に見た《帰らざる河》という映画のマリリンモンローが歌う『River of No Return』 が大好きだったのだから、嫌いなはずないのですが…。
で、ウィリー・ネルソン、83才。
もう現神様の佇まい。すべてを達観しているかの様な眼差しと、あるがままのストレートな歌声は、どのような歌を歌っても『all ok』の響きが聴こえてきます。
ウィリー・ネルソン&ウィントン・マルサリス feat. ノラ・ジョーンズ『ヒア・ウィ・ゴー・アゲイン ~ライヴ・イン N.Y.』というアルバムがあります。 レイ・チャールズへのトリビュート・ライブで、ジャンルを飛び越えての奇跡的なセッション。もう最高のライブです。
2009年のローズ・シアターでの録音ですが、ウィリー・ネルソンとウィントン・マルサリス の相性が抜群で、それに ノラ・ジョーンズがヒューチャーされているのですから、そりゃ痺れます。
ウィントン・マルサリスのアレンジが、ウィリー・ネルソンの良さを最大限に引き出して、改めてその歌とギターのそこはかとない美しさを再認識させてくれました。
どんなミュージシャンにも言える事なのでしょうが、その世界で長い間歌い続けてきた人は、好き嫌いの枠を越えて、耳を傾けるに値する『何か』を確実に届けてくれます。その『何か』は諦めずに自分を信じ続けた永い年月で培った、想いの深さ、美しさ、切なさ、等なのでしょう。
世界がどのように巡ろうとも、生きる喜び、生きる素晴らしさを全肯定できる心の豊かさは、自身の存在そのものを信じ続けた人のみが甘受でき、その豊かさを世界に放てるのでしょう。
ウィリー・ネルソンの歌声はその豊かさに満ち溢れており、今日も僕たちを幸せにしてくれます。