あぁ麗しの昭和歌謡曲① 黛ジュン《天使の誘惑》作詞・作曲・編曲、そして歌声、そのすべてがパーフェクト。これぞ昭和歌謡曲だぁ! 

黛ジュン

七面倒くさい理屈やアーティスト感のすべてを排除した、まったく意味のない単純明快スカスカのラヴソング。《うぶな少女のプラトニックなひと夏の恋》ただそれだけの物語がそのメロディーに乗って、聴き手の胸の内で大きく膨らんでゆくとき、時間の経過と共に沢山の意味を持ち始めます。

昭和43年の年の瀬、家族全員、固唾をのんで小さなテレビ画面を見つめます。

《第10回日本レコード大賞》の大賞受賞曲発表の瞬間です。

まだ小学生だった僕は、黛ジュン《天使の誘惑》が大好きだったのですが、吐息の色っぽい青江三奈《伊勢佐木町ブルース》も意味もわからず魅力的で…、で、でも黛ジュンのミニスカートも捨てがたく(なんちゅう判断基準なんだ)、どちらも応援していたのですが、結果は黛ジュン《天使の誘惑》が受賞します。しかし、《伊勢佐木町ブルース》も歌唱賞を受賞。そして新人賞に、まだまだ初々しいピンキーとキラーズピンキーが歌う《恋の季節》が受賞。歌謡曲全盛期、その年のヒット曲は、子供からお年寄りまで家族全員で楽しむことができ、レコード大賞、受賞の行方は皆の関心事でした。

からす

このように、当時のレコード大賞の権威たるや、今では想像もできない程大変なもので、その後の年末年始にかけて、黛ジュン青江三奈のテレビの露出度は、凄まじいものがありました。おかげでミニスカートと吐息(当時はよくわからんかった)を沢山見聞き出来たので、僕的には、とても嬉しかったのを覚えています。

カラス

で、《天使の誘惑》

この曲、昭和の歌謡曲のラヴソングとして、完璧なのです。その理由は?

①内容が薄くて物語が明確
そう、当時の歌謡曲に内容を求めては行けません。そんなものより、いかに沢山の人々に共感を持ってもらうか。そのキッカケだけを与えてあげれば、あとは聴き手がそれぞれ勝手に想像するのです。

②難しい言葉使いが一切無いので、子供からお年寄りまで理解出来る
優しい言葉、その言葉のイメージを最大限に伝える為のメロディー。「♪すっきぃなのぉにぃ〜っ」と歌えば、本当に好きだったんだなぁと、当時小学生の僕にも、ちゃんと伝わったのです。

③ラヴソングの王道、ひと夏の恋。(海、浜辺、思い出、涙、くちづけ、夕焼け)
この曲以後も、同じような内容のアイドルソングは沢山生まれ、沢山ヒットします。歌い手さんに魅力があればそれでいいんです!

④当時流行のエレキギターによるキャッチーなイントロ
ザ・ベンチャーズ、寺内タケシ、加山雄三等による大エレキブームの最中、当時の歌謡曲はこのような素直なエレキの音をイントロによく使っていました。

⑤当時流行のハワイアン調の曲のアレンジ
昭和40年代の日本は、ハワイアンソングが大ブームでした。僕の大好きだった日野てる子の麗しい瞳(顔かい!)、和田弘とマヒナスターズのスチールギター、そして我らがドリフターズのカミナリ様、高木ブーのウクレレとハワイアンソング。中でも日野てる子のすべてが大好きでした。 このようにハワイアン風のアレンジは、当時、ヒットし易かったのですね。

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⑥鼻歌で口ずさめる、覚え易い歌詞とメロディー
これはけっこう重要で、主婦層が家事をしながら何となく口ずさめる歌が当時の流行歌の理想だと、作曲家・宮川泰も言っておりました。今でいうと、カラオケで歌いたくなる歌みたいなニュアンスでしょうか?

⑦ボーイッシュで、ちょっとだけ小悪魔的な歌手(黛ジュン)による歌唱
この頃はよく、女性タレントを魅力を「小悪魔的」と言う表現をしていました。黛ジュンもボーイッシュで、ちょっとだけ小悪魔的な清純派(意味がよくわからん)として活躍していたのですが、今映像を見ると、けっこうな厚化粧でゲスいんです、黛ジュン。しかし、このゲスっぽさも人気のでる一つの要素だったのでしょう。

⑧さらにミニスカートで歌わせる
そしてさらに大事な要素、そこはかとないエロさ。当時のお父さん(小さな男の子も本能で)の密かな楽しみでもあったのです。

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どうですか皆さん?これだけの要素が重なってしまえば、ヒットしない訳はありません。

プロダクション、レコード会社、作曲家、作詞家、そして歌い手さん達のスペシャリストが、その一つのファンタジー(嘘)を成立させるために、その力を集結します。

大の大人が壮大な絵空事を本気で創造してゆく過程で、そこに新たなリアリティーが生まれるというエンターテーメントの成り立ちは、この時代から日本の芸能界に、根付き始めたのでしょう。また日本国民も、そのエンターテーメントの楽しみ方を学んでいくのです。

天使の誘惑を今聴くと、昭和40年代、高度成長期の真っただ中の最高に浮かれた気分とその高揚感が溢れ出ているのが良くわかります。

からす

歌は世につれ世は歌につれ、それぞれの時代を彩った流行歌を聴くと、その時代に吹いていた風の様なものや、当時の空気を感じさせてくれます。それは、共同幻想として全世代に届いていた流行歌が成立していたからでしょう。

流行歌が成立しなくなった今、その役割を担うのは何なのでしょうか?

今の時代、全世代に共有出来るものとしては、おそらく芸能ネタ(主に不倫ネタ)くらいなものでしょうか?それだと文化意識があまりにも低過ぎて、何とも悲し過ぎやしませんか?

何れにしてもその答えは、その時代に吹く風だけが知っているのでしょうね(ちっとも上手いこと言ってない)。

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おしまい