100回聴いても飽きないアルバム② アート・ペッパー《ミーツ・ザ・リズム・セクション》

100回聴いても飽きないアルバム・シリーズ(いつできた?)第2弾。ウエストコースト・ジャズのアルト吹きと言えば、ポール・デスモンド、チャーリー・マリアーノ、そして日本でも絶大な人気を誇った、イケメン・サックスプレーヤー、アートペッパー! そして、その代表作といったら?

 

もちろん! 歴史的名盤《ミーツ・ザ・リズム・セクション》

1950年代のジャズメンの間で蔓延していた麻薬の渦に、このアート・ペッパーも巻き込まれ、逮捕、矯正施設、カムバックというサイクルを何度も繰り返しております。

このアルバムは、その合間を縫って奇跡的に録音された物。 当時のジャズは、《ハードバップ》を中心としたイースト・コースト・ジャズ(黒人中心)。対して、《クールジャズ》を中心としたウエスト・コース ト・ジャズ(白人)に大きく二分されており、イースト・コースト・ジャズマイルス・デイビス・クインテットで活躍するリズム・セクション、レッド・ガーランド(P)、ポール・チェンバース(B)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(Dr)の最強トリオとの、初録音でした。

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そもそもが天才アルト吹きとして、将来を嘱望されていたアート・ペッパーなのですが、自身の性格的な弱さからの薬物依存で低迷しており、録音当日も最悪の体調で臨んだそうです。しかしそこは天才、最強、最高のリズム・セクションを得たアート・ペッパーは、その才能を遺憾なく発揮、乗りに乗った演奏で、信じられないほどよどみなく美しい、そして哀愁ただようアドリヴフレーズを連発し、素晴らしい演奏を見せています。

特に一曲目、《You’d Be So Nice To Come Home To》は、名演中の名演。

この曲、日本では(ニューヨークのため息)ヘレン・メリルで、とても有名なスタンダードナンバーなのですが、この時のアート・ペッパーのアドリヴは神がかっており、 僕は何度も聴きすぎて、すべてのアドリヴフレーズを覚えている程。

最高のテクニックを駆使しているのでしょうが、ジャズに慣れていない方でも、十分楽しんでいただけるほどに聴き易く、何度聴いても飽きないのです。

アルバム全曲、捨て曲がなく、リズム・セクションの、レッド・ガーランド(P)、ポール・チェンバース(B)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(Dr)の 演奏も、流石というほかありません。

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ウエストコースト・ジャズの代表的なアルト吹きと言えば、《テイクファイヴ》で有名な、ポール・デスモンドがいます。一時期、ジェリー・マリガンとのアルバム《ブルース・イン・タイム》を何度も聴き込んでいた程大好きだったのですが、ポール・デスモンドのアルトは、非常にクールで、インテリジェンスで、硬い音なのですが、対してアート・ペッパーのアルトは、非常に柔らかく、人の情を強く感じる程、優しくあたたかい音なのです。

どちらも素晴らしく、聴き比べると、そのコントラストが明確になり、非常に面白いのです。

アートペッパーの人間的な弱さは、以前記事にした、同じウエストコースト・ジャズのトランペット吹き、チェット・ベイカーと酷似しており、その滲み出る哀愁感は、日本人の繊細な情緒(もののあわれ)に共鳴し、全僕(日本人)に好意的に受け入れられました。

https://blog.akiyoshi-zoukei.com/katsu/post-345

 

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人間の感受性は、人の数程千差万別なのでしょうが、可憐な花がそうであるように、繊細で美しくあればある程、儚く脆いものなのでしょう。

例えば、美しいものを100%感じ取れる人は、醜いものも同じ様に100%感じてしまう。美しいものを10%しか感じられない人は、醜いものも同じ様に10%しか感じられないのでしょう。それもそのはず、神は世界を美醜で創造しておらず、あるべきものを無分別にこの宇宙に現しました。美醜を分別しているのは、あくまで人間側の責任なのです。

僕みたいに森羅万象に対して鈍感で、外界を受け取る感受性の容量の少ない人間は、少ないストレスでやり過ごせるのでしょうが、アートペッパーのような天才は、鋭い感受性を持ってしまったがため、天国(神)を感じられる分、同じ様に地獄(悪魔)も感じてしまい、それを受け止められず、精神そのものが崩壊してしまうという、天才にありがちなパターンで堕落してしまったのでしょう。

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宇宙的無意識の大海には、常人では到底受けきれぬ程のすべての情報が漂っているはず。

人間の感受性の制御装置は、その情報を人が狂わない程度の容量に制御するようなシステムで備わっているものですが、先天的にその制御装置がくずれてしまっている人も稀におり、その情報を受けきれるか否かで、覚醒するか発狂するかに別れてしまうのでしょう。

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何時もの様に、話が大きくズレましたが、多少なりともアートペッパーもこの狭間で苦しんでいたのでは無いでしょうか?

自分の現状のあり様は、100%自身の発した想念や行動の結果なのでしようが、薬物依存症やアルコール依存症に苦しんでいる人の多くは、必要以上に繊細な精神の持ち主なのかもしれません。しかしその精神のあり様は、多くの芸術や宗教(哲学)を生み、多くの人の人生に光を与えて来たはずです。

なにはともあれ、アートペッパーは、僕の人生に哀愁の彩りを添えてくれた一人だったのです。

 

おしまい