いやぁーっ、今年のM-1決勝はすべての組が面白かった! 画面からも伝わってくる会場の重くて異常な空気感の中、大本命の《和牛》を抑え過去最高レベルの戦いを制したのは、若手実力ナンバー1の《霜降り明星》! やっぱりM-1は面白い!!
敗者復活組は予想通りの《ミキ》。やはり屋外ステージでの漫才は、勢いやテンションで押してゆく漫才スタイルが有利なのは当たり前。順当な結果だったのではないでしょうか?
決勝進出者10組が出揃ったところで、今年も《笑神籤》という芸人にとっては過酷なシステムで出演順が決まります。 大げさではなく一年間、命を削って作り上げてきたネタを一発勝負で披露する漫才師にとっては神経を削られるイジメに近い演出(観客にとっては面白い演出なのでしょうが…)。
ファーストステージ、トップバッターに選ばれたのは《見取り図》
僕はツッコミの盛山の声質が大好きで、この人のツッコミのテンションは観客の共感を呼びます。 今回の大会は、ツッコミの声質と品が勝敗を左右した大きな要素だったのではないでしょうか? 声質には、演者の品や知性やセンスが全て現れており、そのツッコミに観客がおおいに共感することで、おおきな笑いが生まれるのでしょう。 ボケのリリーさんの頻繁に挟む小ボケが結構きいていて、「マルコ神父」や「すだゆりこさん」などの謎のワードを盛山がスルーしておいて、時間差で突っ込むというパターンは、何時ツッコむ(回収)のかをワクワクしながら待っていた僕的には非常に楽しかった。
「あと、マルコ神父ってだれっ!!」
「あと、すだゆりこもだれっ! 社長がゆうてたんやけど!」
トップバッターのハンディーか、審査員の様子見的な採点で 606点! しょっぱなから十分に面白かった《見取り図》だったので、この点数はさすがにかわいそうでした。
まだまだこれからの《見取り図》に期待です。
二番手に登場は、ラストイヤーの《スーパーマラドーナ》
M-1に、犯罪的な執念を燃やす武智とあまり売れたくない田中の格差コンビ。準決勝のネタは《スーパーマラドーナ》らしい田中の異常なボケ満載でとても面白かったのですが、武智は決勝で勝ち残るネタではないと踏んで、予選とは違ったホラー掛かったネタで挑みます。
2.3回見直すと、凄く良く出来たネタで、よく作り込んでいるのがわかるのですが、ボケの田中の観客の笑い待ちが少しづつズレていて、そこがいまいち盛り上がらなかった要因だったのかも…。 武智の「あの、ちょっと刺さってますぅーっ!」は面白かった!
得点は617点! 最終ステージ進出は難しくなります。審査員の評価は厳しめでした。それだけ期待値が大きかったのでしょう。
三番手は実力者、《かまいたち》
くじ運良く、いい感じの出番で登場の《かまいたち》。タイムマシーンで時代を遡って、作るきっかけを失っていたポイントカードを作りたいというだけの、小さな小さな話を力業で4分間押し通します。 山内の偏執狂的なボケを濱家が常識人のスタンスでツッコミ続け、常識人の濱家のほうが少しづつ壊れてゆくという、これぞ《かまいたち》と言える最高のネタで、会場を沸かせます。やはり二人の佇まいも声質も座りが良すぎます。出てきただけで笑いたくなるのは僕だけでしょうか?
「三角って、どこの宗教やねん!」
山内にガッツポーズが出るほどに手ごたえを感じたお二人にとって、思ったほどの得点が出ずに、636点! 暫定トップの得点ながら、優勝候補が何組も後に控えていることから安心できる得点ではありません。本当に、いたち多めで良かったのでしょうか?
そして4番目に登場は、ラストイヤー《ジャルジャル》
今年は最高のネタ順で登場の《ジャルジャル》。毎年、新しい発想のネタを携えてM-1決勝に登場するも「はたしてこれは漫才なのか?」の壁に跳ね返えされ続け、今回最後の挑戦。
意地でも《ジャルジャル》のスタイルを貫き通し、これぞ《ジャルジャル》の「国名分けごっこ」という、最高にくだらない言葉遊びのネタで挑みます。
いやーっ、面白かった! 僕はこのネタ、既に2度ほど見ているのですが、それでも凄まじく面白かった! 殆ど練習しないと言っているお二人ですが、思わず「どんだけ練習しとんねん!」と叫びたくなるほどの完成度! 演技も達者なお二人なのですが、特に「ドネシア」や「ゼンチン」と言わされる時の後藤の微妙に嫌そうな表情は秀逸で、素晴らしかった!
優勝しなくても、このネタで会場をこれだけ沸かせられただけで本望なのではないでしょうか?
「ドネシアの口になってしもうてんねん!」
審査員も何がおもろいのかわからないままに高得点を連発! 特に志らくさんは99点という満点に近い得点を付け、合計点はかまいたちを抜いて648点を叩き出し、暫定トップ。 塙の「ゲームの説明をしないまま、観客と共に遊びながら進めてゆく構成が素晴らしかった」という評は最高に素晴らしかった! しかし上沼“ジョーカー”恵美子先生のお口には合わなかったようで、お一人だけ88点の辛口評価。
5番手に登場は初出場にしてラストイヤーの《ギャロップ》
大阪ではそこそこ知られた漫才師なのですが、全国区では「だれやこいつ」的なアウェイ感バリバリのお二人。 今回もステージに登場した最初の空気は「だれやこいつ」的な感じ満載だったのですが、じわーーっとキャラクターが降りたころから、観客を《ギャロップ》のそこはかとない笑いの世界へ誘います。 M-1の4分という短時間での勝負の中では《ギャロップ》の面白さは十分伝わらなかった様に思えます。ネタ的には禿げの林いじりの自虐ネタで、オーソドックスなものなのですが、これからもっともっと面白くなるはずのところで終わってしまった感がありました。 僕的には大好きだったのですが、やはりM-1では不利な芸風だったのでしょう。得点は614点でこれまでで第四位。
「ゆうほど禿げてないからね」
「禿げ方があんまり面白くない」など、
最後まで審査員から林君がイジリ倒され、司会の今田にまで「じゃあ、悪いけど帰ってくれるかなぁ。」と言われ、すごすごと引き上げた《ギャロップ》は、芸人的には、とても美味しかったM-1だったのではないでしょうか?
そして後半戦に突入! 6番手は唯一の男女コンビの《ゆにばーす》
一度見たら絶対に忘れないキャラクターのボケの女の子、はらちゃん「イエーーィ!!。」その隣に《M-1命》のメガネ男、ツッコミとネタ担当の川瀬名人。今年のネタは予選から少し弱いように思えたところ、しょっぱなから川瀬名人が噛んでしまいます。
《「激やばブスカップル」が遊園地でデートの巻》のネタだったのですが、圧倒的に笑いの量が少なかった。途中、漫才の中で漫才をやるという《劇中劇》ならぬ《漫才中漫才》をこてこての関西弁ではらちゃんがやったのですが、これが意外に達者で味があり面白かった! 通常の《ゆにばーす》の芸風との気持ちの良いコントラストが生まれ、今後絶対に使える武器になるように思えました。というか是非見てみたい!
得点は594点のここまでの最下位。審査員・松本人志が言うように
「いかにも六位」
「絵にかいたような六位」
でした。
《ゆにばーす》はまだまだ先がありますので、是非リベンジをはたしてほしい!
頑張れ、激やばブスカップル!
場が沈んだところで、終盤7番手は敗者復活から登場の、勢いのある兄弟漫才コンビ《ミキ》
敗者復活のステージで、一番受けたネタ「サザエさん」ではなく「ジャニーズ事務所への履歴書送付」のネタに替え、激しい漫才を展開。若者(特に女性)に圧倒的に支持されている《ミキ》。M-1レースではピッタリの芸風の《ミキ》。 しかし、ツッコミのお兄ちゃん・昴生の叫び続ける荒々しいツッコミの声質は、うるさすぎて受け付けない人もいるようなので、そのあたりの評価は分かれるところ。ネタそのものは、さすがとしか言いようのない完成度の高いもので、敗者復活戦の勢いのまま会場を大いに沸かせた《ミキ》。
得点は638点の暫定2位! 惜しくも《スーパーマラドーナ》、ここで敗退してしまいます。
武智の最後のコメントは命を削ってM-1に挑み続けた者だけが語れる美しくも潔いものでした。本当にお疲れさまでした。それに引き換え田中君は最後まで「テッテレー―ッ!」の超くだらないボケをかまし続けてくれ、《スーパーマラドーナ》の芸人魂ここにありを魅せてくれたのです。
「俺が一番M-1のこと思ってんねん!」 アッパレ武智!! アッパレ田中!!
そして8番手は、唯一吉本以外(ケイダッシュ)から決勝進出したコンビ《トム・ブラウン》
もう最高の漫才でした! 僕的には大好物の芸風《なかじMAX》の意味不明な最強ネタ。《ギャロップ》と同じく「だれやこいつ」的なアウェイ感バリバリの状況から、最後には会場を大爆笑に巻き込んだ、自称・正統派しゃべくり漫才師《トム・ブラウン》! もう涙無くしては語れない程のくだらなさ! 長髪で異様な佇まいのツッコミの布川くんと、チビ、デブ、ハゲの三拍子そろったボケのみちおくん。 サザエさんの中島君を5人集めて始まる最強《なかじMAX》を作る旅路は果てしなく、徐々に完成していく過程の、みちおくんのボケは、おそらくパチンコの確変の演出からヒントを得てのものだと思うのですが、これが最高に面白かった! 布川くんの甲高い声のツッコミに戸惑っていた会場のお客さんが、訳の分からないうちに受け入れざるを得ない空気を作り、強引に引き込こんでゆくパワーは何なのでしょうか?
戸惑い気味の審査員の得点は633点! 惜しくも第四位で夢の最終ステージ進出はならず。二本目に予定していたネタ、土の中から出てくる加藤一二三は、見ることはできませんでした。
しかし《トム・ブラウン》はM-1で確実に爪痕を残しました。
つづいて、若手ナンバーワン! どちらも才能に恵まれたコンビ《霜降り明星》満を持して9番目に登場!
漫才のスタイルは《トム・ブラウン》に少しかぶるのですが、こちらは多少の知名度もあり、若手だけあって新鮮味と好感度が《トム・ブラウン》よりも遥かにあったので、ネタの最初から観客は受け入れる準備が出来ており、《トム・ブラウン》が作ってくれた場の空気にしっかりハマることができたのでしょう。 冒頭のせいやの《ボラギノールのCM》のボケは一瞬間観客がポカンとしたところに、粗品の絶妙のタイミングのツッコミで、いきなり爆笑をかっさらい一気に観客を掴みます。次の《船内アナウンス》のボケも一瞬の間があって、「夜行バスのテンション!!」のツッコミは観客にとってはクイズのよう。粗品のツッコミは、ぴったりはまった答えのようで気持ちがいいのです。
せいやの身体を張ったボケに対して、粗品のちょっと知的でセンスの良い絶妙なツッコミのコントラストは不思議と美しく、さらには粗品の声質! 説得力と物語を語れるその声質とイントネーションは、天性のものなのでしょう。
《味噌汁大臣》の言葉のセンス。それに対して「ラジオネームか!」のツッコミは秀逸でした。そして僕が一番受けたのは「リアス式海岸!!」のツッコミ! 数え上げたらきりがないほどの、休む間もないボケとツッコミの連射砲! 凄まじくボケまっくった4分間で、ハネまくって終わったのです。
審査員の得点もハネまくって、《和牛》をのこして662点の最高得点! 審査員・塙の言葉通り、お二人は吉本の宝なのです!
ここで《かまいたち》か惜しくも敗退決定。 この辺りの実力差は無きに等しく、運が悪かったとしか言いようがありません。まだ何年かチャンスを残す《かまいたち》。絶対的な実力を誇るこのコンビには、いつの日か優勝の栄冠を勝ち取ってほしいものです。最後のコメントで大スベリした濱家さん。それを一ミリたりともフォローすることなく完全にスルーし、冷静に独自でボケ、笑いをとる山内くん……。
ドンマイ!濱家!
そしてしんがりは大本命! 人気、実力ともにナンバーワン! 会場の期待を一身に背負って《和牛》の登場です!
「もしもゾンビに噛まれたら、どのラインで殺していいのか?」のお二人の見解の相違を延々と続け、それだけで最後まで押し切るという力業のネタ。入りの説明部分で笑いが少なかったので「大丈夫か?」とヒヤヒヤしながら見ていたのですが、そこは《和牛》、そんな心配をよそに、中盤から終盤にかけてグイグイ引き込んでいき、爆笑を取ります。
「まだまだ水田やん」「い、いや、そこそこゾンビよ!」のくだりは最高でした。
「うそやろーーっ、噛まれてたん?お前も!」からのラストの展開は、さすが《和牛》、タダでは終わりません。ハネまくった《霜降り明星》の後だっただけに今回ばかりは厳しいと思っていたのですが、その不安をすべて跳ね返した《和牛》の実力は、ある種の感動さえ覚えたのです。凄い!!
採点は、審査員全員90点以上の656点! 《霜降り明星》に次ぐ第二位の成績で順当に最終ステージへ。ここで《ミキ》の敗退が決定します。贔屓にしてくれていた上沼“ジョーカー”恵美子先生もすっかり《ミキ》のことは忘れ去り《和牛》を大絶賛!
かわいそうな《ミキ》!
そして最終ステージに勝ち残ったのは
①《霜降り明星》
②《和牛》
③《ジャルジャル》
最終決戦最初に登場は、ラストイヤー最後の生き残り《ジャルジャル》
M-1最後の最後までジャルジャルスタイルを押し通した、正統派しゃべくり漫才の真逆を行く、超くだらない目立ちたがり漫才。最初から最後まで、互いに目立とうとするだけの内容スカスカなジャルジャル漫才の最高峰! デビュー以来、このスタイルで戦ってきたお二人の矜持をしっかり見せて頂きました。
大好きな《ジャルジャル》!
天才《ジャルジャル》!
いつまでもアバンギャルドで戦ってれ!!
二組目は大本命の《和牛》
一本目に勝るとも劣らない《オレオレ詐欺》の強烈なネタを持ってきた《和牛》。 とにかく上手くて面白くて品があって、テンポが心地よいのです!
「たまたま信二やねん」からの「たまたま信二ちゃう! ガチガチ信二やん!」のくだりは最高でした。息子とお母さんの騙し合いがエスカレートしていき、最後は二転三転のどんでん返し。 その演技力もさることながら圧巻の脚本力。ここで《和牛》の優勝を確信したのです。
が、しかし……、最後に登場した大穴の《霜降り明星》
一本目にあれほどハネた《霜降り明星》
さらに完璧なネタを披露した《和牛》の後、これ以上のものはさすがにないだろうと皆が思っていたところ、しょっぱな、「バスロマン!バスロマン!」の赤ちゃんの泣き声に「バブやろ!おまえ入浴剤で間違えとるやろ!」の粗品のツッコミで、いきなり一本目と同じほどの笑いを取ります。
《懐かしい小さいころの話》のネタで連射砲の如くせいやがボケまくり、それを絶妙な間と絶妙なワードで的確にツッコむ粗品。そのコンビネーションは完ぺきで、せいやのすべてのボケを余すことなく確実に観客におろしながら笑いを増幅させる、粗品のツッコミ。
「プリンセス転校生!」
「しょうもない人生!」
「七代目ひょうきんもの!」
で完全に会場を支配します。凄まじい笑いの量。
さあこれで優勝の行方は《和牛》か?《霜降り明星》か? 僕の中の予想は《ジャルジャル》の目は完全になくなったのです。ゴメンね《ジャルジャル》!
漫才というジャンルのくくりからすると《和牛》なのでしょうが、この日一番うけた漫才のコンビが優勝者だとするM-1のコンセプトからすると《霜降り明星》もありか? と思いを巡らせます。
《霜降り明星》は、今年の勢いのまま優勝しなければ、今後の優勝は難しいでしょう。それに対し、今年優勝を逃しても、まだまだチャンスがあるように思える《和牛》。それでも三度目の正直で何としても取りたい《和牛》。
さあ、どっちだ!
「それでは優勝者の発表でーーす!」の今田のセリフの後、「それは、今年もCMの後で!」の上戸彩ちゃんのお決まりのフレーズで、これまたお決まりでズッコケる三組!
ここに僕は、芸人の深みと凄みを感じたのです!
感じるかーーーーっ!!
巨人師匠、中川家・礼二、ナイツ・塙、立川志らくと、四人立て続けに《霜降り明星》の文字が開き《霜降り明星》の優勝があっさり決定! 残り、サンドウィッチマン・富澤、松本人志、上沼恵美子が《和牛》に入れ、結果的に4対3の接戦だったのですが、去年に続き大番狂わせで大穴、《霜降り明星》が優勝をさらう結果となりました。
史上稀にみるレベルの高さと大接戦だった今大会。《和牛》には来世に持ち越さず来年こそは優勝を勝ち取ってほしい! 一年間の苦しさを何もわかっていない無責任なド素人の僕の戯言なのですが、《和牛》ほどM-1王者にふさわしい風格をもった漫才師はいないと思うのです。
優勝した《霜降り明星》も、今後M-1王者として何としても売れてほしい! せいやのボケと粗品の心地よい声質のツッコミは、けっして大げさではなく日本漫才界の宝!
毎年どんどんレベルが上がってゆくM-1の漫才。30年以上前の漫才ブームの時からすれば段違いのレベルで、才能豊かな芸人がひしめきあっている現状は、芸人さんからすれば過酷なのでしょうが、観客の僕らからすれば天国の様な状況。信じられないほどのプレッシャーを感じ、考えられないほどの努力を重ねて勝ち残った漫才師の皆さんに最大限の敬意を払い、これからも応援し続けたいと思います。
なにはともあれ、
今年のM-1優勝を目指したすべての漫才師の皆さんに栄光あれ!
そして、おめでとう!霜降り明星!