テナーサックスの神に愛された、最後のハードバッパー《ソニー・ロリンズ》

ソニーロリンズ

ソニーロリンズ86才 チャリーパーカーに始まるハードバッパーの最後の生き残り。名だたるジャズジャイアント達と熱いセッションを繰り返し、数えきれない程の名演、名盤を残した心優しき天才テナーサックス奏者。

あまりにも大物過ぎて、僕なんかが紹介するのは申し訳ないのですが、モダンジャズが時代と共に生きていた1950年代から1960年代のサックス奏者の中で、絶大な人気と実力を兼ね備えた怪物です。

学生時代、バイト代の入った日、油井正一のジャズ解説本を握りしめ、レコード店へ向かいます。さわやかなブルー色を背景にロリンズのサックスを吹くシルエットが黒く浮かび上がったジャケット、名盤中の名盤、《Saxophone Colossus 》を早速購入、帰路の途中、ジャズ喫茶でライナーノーツを先に読み、自宅に帰って早速ターンテーブルにレコード盤を乗せます。

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1曲目は《セント・トーマス》。軽快なカリプソのリズムに乗ったテーマが流れ出すともう既にロリンズの虜。そのおおらかで明るく、のびのびとしたアドリブに一発でやられました。

その後購入したのは、《Tenor Madness》第一期マイルスデイヴィスクインテットのリズムセクションをバックに、のびやかにブルースを吹きまくるロリンズ

貴重なのは1曲目、ゲストにジョン・コルトレーンを迎えてのテナーバトル。両巨匠のレコード録音での競演はこの時だけで、大変レアな音源となっています。しかし、まだコルトレーン《シーツ・オブ・サウンド》を確立する以前のもので、コルトレーン先生、イマイチの印象でした。

バチバチのテナーバトルをお望みの方は、ディジー・ガレスピー《Sonny Side Up》これで決り!

ソニー・ロリンズソニー・ステット二大ソニーの競演! 特に2曲目《TheEternal Triangle》のテナーバトルは凄まじく、文字通り火花を散らします。また、流石のハードバッパー、ディジー・ガレスピー先生の火を噴くトランペットも必聴!

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そして、ライブ盤で最高に興奮する一枚は、なんと言っても《A Night At The “Village Vanguard” 》で決ります。

ライヴハウス・ヴィレッジヴァンガードの、記念すべき最初のライヴ録音盤です。ジャズはライヴ盤と言われるように、このアルバムはライヴならではのグルーヴ感と熱い演奏が聴けます。スタンダードナンバー〈朝日のようにさわやかに〉の自由奔放な、いかにもロリンズらしいアドリヴフレーズは圧巻。

又、個人的に大好きで一番良く聴いたアルバムは、《The Bridge》なのです。

ロリンズと言う人は不思議な人で、あの豪快なテナーの演奏からは考えられないほど内面は繊細で、煮詰まると何度も活動停止してしまうのです。で、何事も無かったように復活して、また豪快な素晴らしい演奏をするので、常人では何がなんだかよくわからんのです。
このアルバムは、二度目の引きこもりからの復活直後のアルバム。この時代はピアノレスの編成の多かったロリンズですが、このアルバムではギターのジム・ホールの参加で、とってもオシャレに仕上がっており、聴き易く、初心者にはおススメです。

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ここ迄のアルバムは僕が生まれる前後の物で、もちろんリアルタイムでは聴けていないのですが、1977年、まだ僕が大学生だった頃、リリースされた『イージー・リヴィング』は、リアルタイムで聴けたアルバムでした。1曲目はスティービー・ワンダーの名曲《イズント・シー・ラヴリー》
これは原曲のスティービー・ワンダーのハーモニカのアドリヴが大好きで、何度も何度も聴いていた曲なのですが、ロリンズのテナーはそれとはまったく異次元の出来。

ちょうどその頃、日本ツアーも行なわれており、私、幸運にも福岡公演に行っているのです。

初めての体験、生ロリンズの衝撃! 一人、カデンツァで舞台狭しと練り歩きながらテナーを延々と吹きまくる巨漢ロリンズ先生。その迫力に、ただただ圧倒されました。とにかくすべて大きい!サックスの音量、アドリヴのアイディア、音の包容力、そして身体、夢の様な時間でした。

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ソニーロリンズは、同時代のライバル、ジョン・コルトレーンとよく比較されるのですが、まったく無意味なことで、追求しているヴィジョンとステージがまったく違うのです。
コルトレーンのテナーは、昔書いた記事に譲りますが、ロリンズのテナーは、誰にも真似の出来ないリズム感と、豪快なのだけどどこか繊細で温もりのあるフレーズを重ねてゆく、のびやかなアドリヴプレイが特徴。ライヴで乗り出すと、手がつけられない程ゴリゴリに鳴りだすテナーサックス。まさに縦横無尽! 特にカデンツァでのソロは、その一音を聴くだけでロリンズだとわかる程に特徴的なものです。

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とにかく、理屈をすべてぶっ飛ばす程に突き抜けていて、何時も僕を幸せにしてくれます。

チャーリーパーカーがそうであるように、天才プレーヤーが覚醒して自身の臨界点を越えてゆくと、聴衆をとてつもなく自由で心地よい世界に連れて行ってくれるのです。人間の感情を越え、重力を越えた自由な場所へ。これが本物の音楽の力なのでしょう。

生きる伝説、最後のジャズジャイアント、ソニー・ロリンズのテナーサックスの響きは、遍く一切を照らします。

おしまい