《題名に月のついた名曲10選》あらゆるジャンルの中から超私的に厳選した =Songs For Moonlight=

月の歌

古今東西、月にまつわる楽曲は数多く生まれています。月の放つ光とその引力は、地球の生物に大きく関わっているそう。まして心を持った人間に及ぼす影響力は絶大で、人の感情は月の満ち欠けに、ぴったりとシンクロしています。だからこそ月は、世界中の人々の詩情を誘発するのです。

とても大きくて美しい満月は、夜の帳に光の穴をあけているよう

その覗き穴から月の精は異次元の息吹を吹き込みます

月の息吹は夜風となって心の隙間に忍び込み

私の心と身体を 少しずつ、少しずつ、妖しいまでに美しく狂わせてゆくのです……。

からす

はい、イラストを描いている時に、なぜか出て来たフレーズなのですが、怖いですねーーっ、恐ろしいですねーーっ。 前回書いた「太陽は人の身体をつくり、月は人の心を作る」のフレーズは何かの本で読んだのですが、月はいつの世も人間の感情を大きく揺さぶるようです。

だいたい人が詩なんていうものを思い浮かべたり、創作したりする時は鬱状態の時に決っているのです。失恋したり、人生に失望したり、世の中を信じることが出来なくなったりした時に名作が生まれるわけで、月の光と月の息吹がなければ、名作の大半は生まれていなかったのではないでしょうか?

人は放っておけば間違いなく、くよくよ、めそめそ、します。

そう、誰もが “可哀想な私” “哀しみに暮れる私” が大好きなのです。 そんな夜、ひとりぼっちの私を慰めてくれるのは、天上から優しい光を注いでくれるお月様なのです。

そんなとき一人盛り上がって、上記のような恥ずかしい詩を書いたりするのでしょう(僕だけか?)。 で、前回の《銀の月》からの月繋がりで、今回は《題名に月のついた名曲10選》と題しまして、僕の浅い音楽体験を元に、超私的なセレクトでお送りいたします。(順不同です)

からす

①《月の光》クロード・ドビュッシー

いきなりクラシックからの選曲。ドビュッシーの曲の中でもっともポピュラーな楽曲《ベルガマスク組曲・第3曲-月光》 映画、テレビドラマ、演劇等で 頻繁に使われるため、クラシックに疎い僕でも、その旋律の美しさは耳に馴染んでいるのです。

冬の静かな湖畔の夜空に、青白く光輝く月。

その時、一筋の月の雫が水面に滴った刹那に最初の一音が始まります。

ピアノ演奏の《月の光》を聴いた時の僕のイメージがこんな感じで、そのピアノ演奏者はフジ子ヘミングでした。

②《今宵の月のように》エレファントカシマシ

今度はうってかわって日本のロックグループ《エレファントカシマシ》の代表曲。 最初に宮本浩次の声を聞いた瞬間、「ムチャクチャいいっ!」と、心で叫び、CDショップへ。 以来ファンであり続けているのです。この曲は歌詞も非常に美しく、宮本浩次はきっと大変なロマンチストなのでしょうね。この人の曲のメロディーラインの哀愁は、以外かもしれませんが、ユーミン《翳りゆく部屋》が根底にあるのがよくわかるのです。自身もフェヴァリットソングにこの曲をあげるほどリスペクとしており、カバーもしています。

♪夕暮れ過ぎて きらめく町の灯りは

悲しい色に 染まって揺れた 

君がいつかくれた 思い出のかけら集めて

真夏の夜空 ひとり見上げた

僕の好きなフレーズを抜粋したのですが、美しい情景と情感が溢れ出て来るのです。 その他にも《エレファントカシマシ》には名曲が沢山あり、そのライヴで、生きる力を貰った人は沢山いるのではないでしょうか。

③《ムーンライト・セレナーデ》グレン・ミラー楽団

はい、誰もが知っているグレン・ミラーの代表曲にして、超有名なジャズのスタンダード・ナンバーです。色々なバージョンを聴いてみたのですが、やはりオリジナルのグレン・ミラー楽団のものがベスト。良い意味でのあくのなさと流れるようなメロディーラインの美しさは、奏者すべてが白人だけのバンドならでは。当時の映画音楽独特の郷愁が味わえます。

④《グレープフルーツ・ムーン》トム・ウェイツ

夏川椎菜って誰だ! グレープフルーツ・ムーンをネットで検索するとこの女の子の曲しか出てこん! 俺のトム・ウェイツはどこにいった?  …あぁ、声優さんだったのですねこの子。最近の声優さんはビジュアルもそこそこで歌も達者ですごいですねーって、そうじゃなくて、僕のグレープフルーツ・ムーンは、トム・ウェイツの楽曲以外にはありえないのです。

僕の一番好きなロックミュージシャンの記念すべきデビューアルバムの中の一曲。

グレープフルーツみたいな月と輝く星がひとつ  

僕を静かに照らしている

あの歌をもう一度聴きたくて  

焦がれている僕がわかるかい?

あのメロディーを聴くたびに  

僕の心の中が壊れてしまうから……

グレープフルーツみたいな月と輝く星がひとつ 

時の流れを戻すことなんて出来やしないのさ

乗り越えられない運命なんてなかったのかもしれない

君は僕に大切な何かを与えてくれたけれど

その代償はとてつもなく大きなものだった

あのメロディーを聴くたびに

僕の心の中が壊れてしまうから……

グレープフルーツみたいな月と輝く星がひとつ

もはや隠すことはできやしない

デビュー間もないトム・ウェイツが、ピアノの弾き語りで切々と(孤独)を歌っていた《酔いどれ詩人》の頃の名曲。

バーの雑役係のバイト終り、どうしようもない寂しさを酒でまぎらわせ、月と明けの明星を眺めながら、昔大好きだったあの子を愛し続けている、自身の行き場のない恋心を歌います。

当時のトム・ウェイツは、ジャズ、ブルースはもとより、カントリーウエスタン、フォーク等の影響を強く受けており、その後、縦横無尽に無国籍サウンドを展開することとなるのですが、この曲はそれ以前の貴重なもの。 しかし、トム・ウェイツの音楽は、何時の時代でも、その根底には、このノスタルジーとロマンチズムが、滔々と流れているのです。

⑤《フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン》ジュリー・ロンドン

言わずと知れたジャズのスタンダードナンバー。 ありとあらゆるミュージシャンにカバーされていて、聴き比べるととても楽しいのですが、僕的なベスト3をあげるとするならば、

ジュリー・ロンドン

ナット・キング・コール

トニー・ベネット

アストラット・ジルベルト

ウィリー・ネルソン

尾崎紀世彦

どこがベスト3やねん!と突っ込まれそうですが、どの歌手も捨てがたく…、ゴメンナサイ。

まず、ジュリー・ロンドンはやはり良いですね。美しいし色っぽいし白人ジャズボーカルの王道です。

そして魅惑のベルベットボイス、ナット・キング・コール。何時聴いても幸せな気持ちにさせてくれます。そしてスケールの大きさではトニー・ベネット。何年か前にレディーガガとのコラボ『Cheek to Cheek』というアルバムでその素晴らしさを再認識させられました。しかしレディーガガも凄かった!ジャズも歌えるんですこの人!

ボサノバ界からは、アストラット・ジルベルト。そう、《イパネマの娘》の人です。この気怠さに浸ると、「仕事なんかしなくて、ぼやーっと暮らしても良いのだ!」と、叫びたくなるのですが…。

さらにカントリーウエスタンからは現人神、ウィリー・ネルソン。その第一声から優しさに包まれてしまいます。

そして最後は日本が世界に誇るシンガー、尾崎紀世彦。 残念ながら既に亡くなってしまったのですが、僕は晩年の力の抜けた尾崎紀世彦が大好きでした。日本では、今後このようなスケールの大きなシンガーはもう出て来ないでしょうね。

⑥《月のあかり》桑名正博 ・下田逸郎

もう40年も前の曲となってしまったバラードの名曲《月のあかり》。僕は下田逸郎のバージョンを先に聴いており、こちらがオリジナルと思い込んでいたのですが、作詞は下田逸郎なのだけれど作曲は桑名正博のもので、オリジナルはこちらなのですね。 桑名正博は情感たっぷりに歌い上げるのですが、下田逸郎のバージョンは、淡々と言葉を届けてくれます。 改めて聴くと、やっぱり下田逸郎……、好きだぁーーっ。

⑦《月光価千金》川畑文子

おそらく誰も知らないであろう川畑文子の登場です。ハワイ生まれの日系三世で、昭和初期に日米で大活躍したダンサーにしてシンガー。当時のジャズを日本語にして歌うと、レトロでキュートで、不思議な雰囲気を醸しだします。歌われる曲は、月光価千金を始め、青空、上海リル、恋人よわれに帰れ、キューバの豆売り、サイド・バイ・サイド等、当時流行ったジャズナンバーを網羅しているのです。

串田和美自由劇場の舞台《上海バンスキング》吉田日出子が歌った歌は、川畑文子を徹底的に真似、当時の雰囲気を再現しています。僕は《上海バンスキング》の大ファンで、吉田日出子の歌を通して川畑文子を知り、この人の魅力にハマってしまったのです。

⑧《イッツオンリーアペーパームーン》ポール・ ホワイトマン楽団 ジャンゴ・ラインハルト

ライアン・オニールテータム・オニールの親子競演のロードムービー《ペーパー・ムーン》が本当に大好きで、その挿入歌がこのイッツオンリーアペーパームーン。従ってサントラ盤のポール・ ホワイトマン楽団の(歌はペギー・ヒーリー)バージョンがベストなのです。

が、しかーし、どうしても捨てがたいのがジャンゴ・ラインハルトのギター演奏。ジプシーのジャズギターのパイオニア。何度聴いても素晴らしい!ジプシー音楽にピッタリハマるのです。

もう一度この映画を見直して、そのうちに、子役時のテータム・オニールの魅力を伝える記事を書きたいと思っています。

⑨《荒城の月》瀧廉太郎

日本が誇る音楽家、瀧廉太郎先生の代表作。故郷大分の岡城をイメージしたと言われている荒城の月。な、なんとジャズピアニスト、セロニアス・モ ンクが、《Japanese Folk Song》として演奏しております。 ありがとう、モンク先生!

⑩《月光》鬼束ちひろ

最後は、あばれるくんのテーマソングとして作られた(ちがうちがう!)、鬼束ちひろ《月光》。  一時期、ニコ動で大変なことになっていましたが、あれはなんだったのか? 精神的に危ない状態の人を面白がってイジルのは、とても危険なのです。 所属プロダクションはコントロールできなかったのでしょうか? 今は元気にコンサート活動を続けているようなので、何とか持ち直したのでしょう。

それはさておき、最初に月光の歌詞とメロディーを聴いた時は衝撃的でした。他の曲もたいへん素晴らしく、間違いなく天才の部類に入るアーチストでしょう。昨今、あまりにも薄っぺらい歌詞が巷に溢れているなか、ここまで深く辛辣に内省して、それを適切な言葉に変換する能力は、椎名林檎とはまた違った意味で比類なく、もっともっと評価されても良いのではないでしょうか?

以上10曲、好き勝手に上げてみたのですが……、 あっ、一曲大事な曲を忘れていました!

番外《ムーンライト伝説》

そう、美少女戦士セーラームーン主題歌《ムーンライト伝説》なのです。いやいや大真面目に良いんですよこれが! 娘がまだ小さい頃ちょうどこれが流行っていて何となく耳に残っていたのですが、ももクロが歌っていたので改めて聴くと、良い曲なんですよ哀愁があって…、

ほんとなんだって!!

最後は賛同を得難い《ムーンライト伝説》でしたが、《題名に月のついた名曲10選》如何でしたでしょうか?

今、世の中は末期的な出来事が次々と起こっているのですが、それに同調せずに、月を眺めながら気持ちをゆったりと落ち着かせ、

皆さん! 機嫌良く、おりこうさんに毎日を暮らしましょう!

くれぐれも、月に変わってお仕置きをされぬように。

おしまい