昭和40年代の歌謡曲をベースに、全曲オリジナルナンバーで展開される《ズンドコ昭和歌謡ロック》。幾度かのメンバーチェンジの末、ボーカル(橘京子)とベース(水のさとし)のコンビ編成に落ち着きます。図らずもドリカムと同じグループ編成になっちゃいました!
ネオ昭和歌謡シリーズは、なかの綾に続いての第二弾、《サロメの唇》を 時系列を全く無視して勝手に薄く語ります。
僕が最初に《サロメの唇》を知ったのは《サルビアをわたしに》というPVをYouTubeで偶然見つけたことから。そのPV全体に流れる安っぽい昭和感と凄まじいB級感。そして何より昭和歌謡ロックのイメージをダイレクトに伝える水のさとし作曲のなじみやすいメロディーと、橘京子の圧倒的な、そして何処までも昭和的な歌唱力。 その次にハマったのは《雨のひだまり》。これは昭和的なノスタルジーのシャワーをふんだんに浴びせてもらえるバラード。 橘京子の昭和的な心地よいビブラートのかかった歌声は、曲の素晴らしさも相まって、物語を豊かに語ってくれるのです。PVの映像で、常に橘京子の後で、気持ち悪くベースを弾いている水のさとしの姿は、《サロメの唇》一つの風景として受け入れざるを得ないのです。
そして《あの娘の涙》。 これは打って変わってカレッジフォークテイスト。ベッツイ&クリスやシモンズなんかを彷彿させるもの。この曲の橘京子は、心地のよいビブラートを封印。昭和の女性フォークシンガーの、ノンビブラートでストレートに美しい歌声を天に放つような歌唱法で、又違った昭和の歌の世界を僕たちに届けてくれます。このPVでも登場する(メンバーなので登場して当たり前なのですが…)、気持ちの悪いチューリップハットをかぶったベーシスト、水のさとしは、な、なんとアコーステックギターを弾いており、その姿を僕たちは、再び甘んじて受けいれなければならないのです。
最近のPVで秀逸なのは、《 昭和歌謡館のテーマ》。 これは、現存するレコードショップ《ディスクユニオン昭和歌謡館》のテーマソングとして作られたもので、安っぽいのだけれど、とても昭和的でキャッチーなエレキギターのイントロから始まる心地の良い楽曲。
単純明快で わかりやすい!!
このPVは、《ディスクユニオン昭和歌謡館》の店内での撮影なのですが、なんとベーシスト、水のさとしが、ヴォーカル、橘京子と同等かそれ以上の大きさで画面を占領しているのです。橘京子の後の方でベースを弾いている時までは渋々受け入れていたのですが、さすがにこの気持ち悪い顔のアップは耐えられない。「分をわきまえろ!」と、画面に向かって叫んで怒っていたのですが、人間怖いもので、しまいには慣れるのです。ある意味、このデカイ顔も昭和的であり、橘京子を引き立てる意味も含めて、居ても良いのかと思える今日この頃…。
そのような寛容な心を持って、その他のPVを観てみると、な、なんと水のさとし主演のPVが、たっっっくさんありやがることに、僕は気づいてしまうのです。
《赤い花》《赤い稲妻》なんかは、水のさとしのむさ苦しいデカイ顔が全面に映しだされ、再び「分をわきまえろ!」と、怒鳴り散らすのですが、PVの昭和的な完成度が高く、最後には何故か感動してしまい、「まっ、いいか」の境地に。
さらに「ありがとう、水のさとしくん。意地悪言ってゴメンね。」と言ってしまう程に洗脳されてしまう僕……。
改めまして《サロメの唇》
この、涙が溢れ出る程の昭和的なノスタルジーはいったい何なのでしょうか?
世代的には、幼少期が昭和に引っかかっているか、いないかの人達が、これほどに昭和歌謡を理解し、今の時代にも立派に通用するアレンジと映像で表現出来る感性を持ち得ているのは何故なのでしょうか?
初期の椎名林檎の《歌舞伎町の女王》を聴いたときに感じた昭和歌謡のエッセンスを《サロメの唇》はもっともっと強調し、僕たち昭和歌謡曲で育った世代にまで、しっかり共感出来るものを聴かせてくれるのです。
結成は2003年で、メンバーチェンジを繰り返した果てに、ヴォーカル&ベーシストのドリカム編成に落ち着いたそう。 ”昭和40年代の歌謡曲”をテーマにしながらも、あくまでオリジナルにこだわっている楽曲は、すべてデカ頭ベーシスト、水のさとしの手によるもの。
昭和40年代と言えば、僕自身の高度成長期にドンピシャで、この時期の歌謡曲のシャワーをラジオからふんだんに浴びて育った僕にとっては、ど真ん中なのです。時代はいまだリズム、ラップ、グルーヴ感なのでしょうが、そろそろメロディーの時代に戻っても良いのではないのでしょうか?
ライヴ活動はライヴハウスにとどまらず、路上からグランドキャバレー、スナックのカウンターの中や、レコードショップにあやしげな秘宝館。
他にもオリジナル楽曲は沢山あり、すべてグレードの高いものばかり。 YouTubeに沢山あがっていますので是非、ご覧下さい。
最後に、今一番ハマっているPVが《へぱらぺら節》。
ズンドコ昭和歌謡ロックの最高峰《へぱらぺら節》! どこまで真面目でどこまでふざけているのか? PVは、全編にわたって相変わらずのB級感満載。やっすいB級外タレ事務所から借りてきたような、ヘナチョコ外人にヘナチョコダンスを踊らせて、サイケデリックなイラストを背景に、橘京子がたんたんと歌い上げます。 われらがベーシスト(すでに全面的に受け入れておるのです)、水のさとしは、ひらひら白シャツに赤い玉虫のスーツを着て、嬉しそうにベースを弾いておるのであります。
何度も使ったフレーズ《昭和感》。エロ・グロ・ナンセンス満載のパフォーマンス。 そろそろアンダーグランドから這いずりだして来て、ちょっとだけでも日の目を見て欲しいものです。
前回の《なかの綾》といい、今回の《サロメの唇》といい、若い世代のミュージシャンが、昭和歌謡曲の素晴らしさを理解し、新たな音楽性を融合させて表現している現状を見るにつけ、やはり昭和歌謡曲の持つ圧倒的な物語性とわかりやすさは、全世代に渡って普遍性を持ったジャンルであることがわかるのです。
次回は《浜田マロン》と続くのですが、《ネオ昭和歌謡曲》、もっともっと盛り上がって欲しいものです。
水のさとし バンザイ!!