エルビス・プレスリー《ブルー・クリスマス》 喜びのホワイトクリスマス を過ごす方。哀しみのブルークリスマスを迎える方。彩とりどりのメリークリスマス!

ブルークリスマス

溢れんばかりの色気と哀愁の眼差し。若き日のエルビス・プレスリーが歌う《ブルー・クリスマス》の歌声は、いまだに遠い昔に経験した片想いのせつなさを思い起こさせます。 今年もクリスマスの季節となりました。皆さまいかがお過ごしでしょうか? 十人十色、人それぞれ、彩とりどりのクリスマス。 そう、みんなちがってみんないいのです。


真っ白なパンタロンにチャンピオンベルトのようなベルトを締め、鋲のいっぱい付いたジャケットを着た、ちょっとメタボ気味のリーゼントのオッサン。

 

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僕がリアルタイムで記憶しているプレスリーの姿。 当時、中学生だった僕の目に映るプレスリーは、正直言ってカッコ悪く、何の魅力も感じていませんでした。

しかしながらその数年後何かのTV番組で流れた《監獄ロック》を歌う若き日のプレスリーを見た瞬間、 「これが白いパンタロンのチャンピオンベルトのオッサンなのか!?」と、凄まじい衝撃を受けたのを覚えているのです。なんという色気! 溢れ出るオーラ! こりゃぁ、ほとんどの女の子がワーキャー言うわなぁ。と、納得したものです。 

当時のアメリカの女性のセックスシンボルは断トツでマリリン・モンロー。 そして男性のセックスシンボルは、これまた断トツでエルビス・プレスリーだったのです。


今日はクリスマスということで、《ブルー・クリスマス》を題材にショート・ショートを書こうと思うのですが、僕の大好きなバラード《Are You Lonesome Tonight》もついでにご紹介。 このヴァージョンはノラ・ジョーンズのカヴァーも一緒に編集され、YouTubeにあがっていたもの。 2曲とも失恋の歌なのですが、何度聴いてもとろけてしまいそうな素敵な歌声です。 クリスマスの夜、久しぶりに心の奥底に眠る、汚れなき恋心を思い起こしてみてはいかがでしょうか? 

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ショートショート


なんの目標も、なんの夢も無いまま、ただただ遊びたいという思いだけで入学した三流大学。 それでも、僕にだって訪れるであろう《華のキャンパスライフ 》 に心躍らせながら通学してみたものの、選んだ学部が工学部建築科。当時の理系に女の子なんてほとんどいなく、1回生の間は基礎教養科目と物理学実験の授業の連続で、高校生の頃より超ハードなスケジュール。 

高校さえも、出席日数ギリギリでなんとか卒業した僕に務まるわけがありません! 1か月も経たないうちに挫折。以後アルバイトのみに明け暮れる大学生活が始まります。

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将来の夢はなかったものの、夢にまで見た初めての一人暮らし。 しかしながら家賃15,000円の予算では大学の近くで見つかるはずもなく土地勘もない僕は、不動産屋のオヤジに勧められるまま、大学から随分離れたお寺のお墓の真裏に建つ、木造2階建ての風呂なしアパートを選択します。 

あとでわかったのですが、そこはガラの悪さでは博多区でも屈指の場所。 以後、不思議な佇まいを放つ怪しげな人たちとすれ違いながらの一人暮らしが始まるのです。

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学費だけは親の脛をかじっていたものの、生活費は自力で稼がなくてはなりません。 当時はタウンワークなど何もない時代。アパートの近くのスナックやバーに、手あたり次第飛び込み、「アルバイト出来ませんか?」と尋ね歩きます。 しかしながら、求人の張り紙はあってもカウンターレディーの募集で、チャラチャラした胡散臭い男の大学生を雇う店などどこにもありません。 何日か探し回ってみたものの、どこも雇ってはくれず途方に暮れていたある日、目に入った小さなスナック喫茶の看板。そこには《IN》という文字が光っていました。

 
駐車場の入り口のようなセンスのかけらもない店名に、「IN?ダッサ―ッ!」と、一人で ぶつぶつ ツッコミを入れながら、何の期待もせず入店したのですが、小さな店内にはぎっしり客が入っており、凄く繁盛している様子。 ママと思しきお姉さんに単刀直入に「アルバイト出来ませんか?」と切り出します。 

「うちは女の子しか募集していないから」と速攻で断られ、「そうですか…」と帰ろうとした刹那、厨房から髭を生やした気のよさそうなマスターらしき男性がでてきて、 笑いながら僕に話しかけます。


マスター     お兄ちゃん、何でうちでバイトしようと思ってん?
僕        僕、この近くのアパートに住んでいて、近くでバイトができたらと思いまして…。
マスター     こんな小さな店やで、うちにお兄ちゃんみたいなの、雇う余裕あるわけないやろ?
僕        はぁ…。
マスター     仮にやで、もしお兄ちゃん雇ったら、この店で何して働いてくれんねん?

博多のど真ん中で聞くマスターのこてこての関西弁に戸惑いながらも、どうせ雇ってくれないのなら、でたらめを言って帰ろうと思い立ち


僕        太鼓持ちみたいに、お客さん褒め殺して酒いっぱい飲ませます。 フルーツ盛り合わせなんかも、いっぱい食わせます。
マスター     ハハハハ―――ッ おもろいなぁお兄ちゃん、それほんまやろなぁ。
僕        嘘です。 僕は百姓のせがれなので、米と芋作る以外、何も出来ません。
マスター     ほぉ! ほんなら米と芋は作れるんやな。
僕        嘘です。何も作れません。本当は山伏のせがれなので、法螺だけはうまく吹けます! 今も吹いてます!
マスター     アハハハッ! よし、合格や! 明日から試しに雇ったるわ、真面目に仕事せいよ!
僕        えっ?!


さすが関西人。ママの不安そうな表情をよそに、ノリで僕を雇ってくれたマスター。 ここからこの髭のマスターとその嫁のママ。そして看板お姉さんのマスターの妹・あずみ姉ちゃんの3人と、近所で働く沢山の常連客と関わりながらの、僕のバイト生活が始まります。

何で関西弁かって? マスターきょうだいは、何らかの事情で大阪から流れてきており(色々あったのでしょう)、マスターは、博多で知り合ったママと結婚。数年前、あずみ姉ちゃんと三人でこのお店を開いたそうなのです。

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地域柄、常連客の多くは、博多港の沖仲仕(船内荷役作業員)、町工場の作業員、日雇いの建設作業員等のブルーカラーの労働者。そして上客は反社会勢力のお兄様方。マスターとママは料理や酒を作りつつ、時々客の相手をする程度で、接客はほぼマスターの妹・あずみ姉ちゃん(皆からそう呼ばれていた)が担当しており、そのあずみ姉ちゃん一人で成り立っているようなお店でした。


スナック喫茶なので美味しい定食もあり、夕食を食べ晩酌をしながらあずみ姉ちゃんと他愛のないおしゃべりを楽しむ常連客。


あずみ姉ちゃんの関西人特有の客のあしらいはピカ一で、どんな人見知りの客が来ても30分も経てばすっかりお友達。持ち上げたかと思えば鋭いツッコミ。終始イジリ倒しながらも愛情と温もりがお客の心を癒し、常連客にとってはこの店こそが、仕事帰りの疲れた身体と心をほぐしてくれ、ホッとする場所だったのです。

コテコテの大阪弁コテコテの博多弁飛び交う店内は、アントニオ猪木全盛期の異種格闘技戦を彷彿させる不思議な空間を形成。僕もたまに北九州弁で応戦するのですが多勢に無勢、博多弁に一瞬にして叩きのめされます。 しかしながらあずみ姉ちゃんの大阪弁は天下無敵。並みいる博多弁の猛者たちをバッタバッタとなぎ倒し、ステゴロ全戦全勝で全国制覇、大阪弁最強を証明してみせます。

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このようにして、あずみ姉ちゃんの温かい包容力で皆が包まれがら季節はめぐり、今年もクリスマスの時期に差し掛かります。


この時期のお店のBGMはいつも、あずみ姉ちゃんが大好きなプレスリー《ブルー・クリスマス》 店の隅に置かれた古ぼけたジュークボックスからアナログの優しい音が流れます。


ほぼ毎日ここに集う常連客に、恋人や家族と共に暮らしている者は少なく、独身で寂しい生活をしている者がほとんど。クリスマスの季節になるとより一層人の温もりを感じたくなるもの。お店には何時もより多くの客が訪れます。

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常連客の一人、重ちゃんは博多港の沖仲仕。寒風吹きすさぶ中、荷物の積み下ろしの重労働の毎日。仕事終わり、ぼろぼろになった身体を引きずりなが、くたびれはてた顔をしてやってきます。 それでなくても強面なのにより一層危ない顔になっている重ちゃんは、あずみ姉ちゃんとの減らず口の応酬でみるみる上機嫌に。 しだいに穏やかな顔になってゆくのがわかります。


あずみ姉ちゃん     メリークリスマス! なんや重ちゃんか?ゆうて損したわ。しかし今日も相変わらず怖い顔しとんなぁ、人でも殺してきたんか?
重ちゃん        やかましか! 怖い顔は生まれつきったい。いつでん、へらへら顔のお前に言われとうなか!
あずみ姉ちゃん     絶世の美女、なにわ小町に向かってよぉゆうたなぁ。 うちのファンの若いもんが黙ってないでぇ。
重ちゃん        おう、何時でも相手したるったい。まとめてかかってきんしゃい!


実は重ちゃん、昔は筋金入りのやくざ者。その背中には立派な入れ墨が彫られており、その目つきは只者ではありません。酔うと決まって刑務所にいた頃の話。当時の彼女に会うことが出来なくて、いかに淋しかったか、どれほどにせつなかったかを顔に似合わず延々と語るのです。そして店の隅のある古ぼけたジュークボックスで、松尾和子《再会》という歌を何度も何度も聴き続けます。ほかの客が違う曲をかけようものなら静かに睨み付け、無言のうちに制圧します。

 
♪逢えなくなって 初めて知った
海より深い恋ごころ
こんなにあなたを 愛してるなんて
あぁ あぁ 鴎にも わかりはしない♪


あずみ姉ちゃん    ほんでその彼女、出所した時まで待っとってくれとったん?
重ちゃん       俺がこげん想っとったのにくさ、面会に一回も来んで、いつの間にか他の男と東京に逃げとった。
あずみ姉ちゃん    なんやそれ、 速攻でふられとるんやないかぁ! 《再会》もくそもあるかぁ!


いつものように酔いつぶれて泣きぬれた重ちゃんは、クリスマスの今日も一人寂しく家路につきます。


あずみ姉ちゃん    気ぃ付けて帰りやぁ、淋しかったら頭なでなでしたるさかい、何時でもここにきいやぁ。絶世の美女・なにわ小町が待っとるでぇ。

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常連客の一人、よっちゃんは町工場の作業員。ふるさとは対馬の中学を卒業して博多に就職。誰よりも真面目に働いて今年で6年目。今では班長として頑張っています。 今思えば、少し発達障害の症状があったように思われるのですが、純真で明るく、工場のマスコット的な存在であったそう。


 
あずみ姉ちゃん     メリークリスマス! よう来てくれたなぁ、よっちゃん。外は寒かったやろ、毎日おつかれさんやなぁ。
よっちゃん       いつも美しかねぇ、あずみ姉ちゃんは。 
あずみ姉ちゃん     よちゃんだけや、そんなんゆうてくれるんは。 (周りの客に)あんたらも、たまにこんなんゆうてみぃ!
よっちゃん       (唐突に)おっぱいさわってよか?
あずみ姉ちゃん     ごめんな、よっちゃん。 うちのおっぱい、触らせるほど大きくないねん、隣の禿げ頭は触りたい放題や! それ好きなだけ触っとき!
周りの客        ケチクサイこと言わんで 順番で俺らにも触らせろ! 減るもんやなかろうが!
あずみ姉ちゃん     あんたらはこんなとこだけは食いつくんかい! 減るんや!あんたらに触らせたら特に減るんや! そんなに触りたいんやったら自分の乳首でも触っとけ!


会社の寮に住込みで働くよっちゃんは、クリスマスの今日もいつもと変わらず夜10時には床に就き朝の6時に起床。日課の全力のラジオ体操を終えた後、朝礼でも皆と一緒に全力でラジオ体操をこなし、元気いっぱい作業開始! 

よっちゃんの耳にはプレスリー《ブルー・クリスマス》は聴こえてきません。

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常連客の一人、正さんは生粋のやくざ者。 お店の三軒先に《正商事》という金貸しの事務所を開いており、コーヒーの出前を頻繁に利用してくれます。
タッパはそんなにないのですが、眼光鋭くどこからどう見てもやくざ者。正さんが入店すると一瞬常連客が静まり返るのですが、そこは無敵のあずみ姉ちゃん、やくざ者であろうがなかろうが一歩も引きません。


あずみ姉ちゃん    メリークリスマス! って、なんや正さんか。ほら、他のお客さんが引きまくっとるやないか、はよ奥のほうの目立たんとこに座り。
正さん        俺をゴミみたいに扱うな! 大切な客やろが!
あずみ姉ちゃん    ヤクザもんが偉そうにゆうな! 悔しかったら、うちに無利子で金貸してみぃ。
正さん        俺んとこは良心的な金貸ぜ。 10日で利息がたったの2割! 健全な高利貸ばい。
あずみ姉ちゃん    違法の高利貸のくせに健全もくそもあるかぁ! クリスマスぐらい良いことせんかい! あんたんとこにはサンタさん、一生来んわ!
正さん        そういえば俺、今まで一回もサンタからプレゼントもらっとらんなぁ。 あずみ! おまえがくれ!今日くれ!今くれ!
あずみ姉ちゃん    誰がやるかい! 今すぐ足洗って名前の通り《正》しく生きるて誓うんやったら考えてやらんでもないけどな。
正さん        足洗ったら、一発やらしてくれるとか?
あずみ姉ちゃん    誰がやらすかい!
 


正さんの事務所にいるのは年老いた税理士のおじいちゃんと、若いお兄ちゃんがいたりいなかったり。 取り立ての追い込みに人手がいつも足りません。

正さんは免許を持たず、頻繁にバイト終わりの僕に取り立ての運転手を強制的にやらせるのです。黒塗りのセンチュリーの運転は、いやでいやで仕方なかった僕なのですが、怖くて断ることも出来ません。


取り立て相手の家の前で、夜通し待機させられることもしばしば。夜中5~6時間ほど付き合わされるのですが、帰りにいつもぶっきらぼうに、むき出しでくしゃくしゃの一万円札を渡されます。 そして正さんが着ていた革ジャンやジャケットを「カッコいい!」と、僕がほめると、これまたぶっきらぼうに「お前にやるけ」と、くれたこともしばしば。 僕には終始優しく接してくれた正さんでした。


遠く関東から流れてきた正さん。その生い立ちは知る由もないのですが、壮絶だったに違いないのです。 おじきの身代わりで、8年間の刑務所務め。その見返りは小さな小さな高利貸しの事務所。 今更足を洗えるはずもなく、このまま一生サンタさんからのクリスマスプレゼントは貰えないであろう正さん《ブルー・クリスマス》。 その髪型はプレスリーと同じ、テカテカのリーゼントだったのです。

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常連客の一人、春夫ちゃんは日雇い労働者。 シャイで無口な春夫ちゃんは、いつも隅の二人掛けのテーブル席で夜の定食を食べ、食後のコーヒーを注文します。店の熱気と喧騒をよそに静かにコーヒーを楽しみ、いつも一言も喋らずに店を出てゆくのです。


あずみ姉ちゃん     メリークリスマス! 春夫ちゃんいらっしゃい!お仕事ご苦労さん、いつもの定食で良いか?


黙ってうなずく春夫ちゃん


あずみ姉ちゃん     春夫ちゃん、痩せすぎやでぇ、それに顔色もわるいし。 定食も残さんと全部食べなあかんやん。好きなもんあったら遠慮せんでゆうてや、作ったるさかい、 うちやのうてマスターが。 ガハハハハハッーーー。


黙ってうなずく春夫ちゃん


あずみ姉ちゃん     今日はクリスマスやから、これ小さいけどクリスマスケーキ、うちからのプレゼントや。いつも来てくれてありがとう。


黙ってうなずく春夫ちゃん。 


あずみ姉ちゃん     春夫ちゃん、なんかリアクションせなあかんやん。そんなんやったら芸人になれへんでぇ。うちのこと嫌いなん?


大きく首を振る春夫ちゃん


いつも汚れたままの鼠色の作業服を身に着け、人と目を合わせることも出来ない春夫ちゃん。 しかしながらあずみ姉ちゃん目当てにこの店に通っているのは他の常連客と同様、そのわかりやすさは微笑ましいほど。


その日は珍しく閉店間際にもう一度来店。クリスマスのバカ騒ぎで常連客が大盛り上がりの中、神妙な顔をしていつもの席に座ります。下戸の春夫ちゃんは、あずみ姉ちゃんにコーヒーを注文。


あずみ姉ちゃん     どないしたん春夫ちゃん、こんな時間に珍しいなぁ。まだコーヒー飲み足らんかった?
春夫ちゃん       こ、これ…。


春夫ちゃん
からあずみ姉ちゃんに渡されたのは高級ブランドのロゴの入った紙包み。おそらく時計か何かだったのでしょう。あずみ姉ちゃんが中を覗きこむと


あずみ姉ちゃん     これをうちに?


黙ってうなずく春夫ちゃん 春夫ちゃんにとっては一世一代のリアクションだったのでしょう。


あずみ姉ちゃん     こんな高いもん貰えるわけないやんか。 寒い中一生懸命働いて稼いだ春夫ちゃんのお金で買った大切なもん、うちもらえんわ。いつか彼女が出来るまで大切にとっといて、その彼女にあげてーな。 うちは気持ちだけで十分や。


黙って聞いている春夫ちゃん


あずみ姉ちゃん     ありがとう春夫ちゃん。 うち、本当にうれしかったで。


と、突然立ち上がってあずみ姉ちゃんに抱きつく春夫ちゃん


春夫ちゃん        俺に女なんか一生出来るわけなかろーがぁ!!!  あずみ姉ちゃんが好きなんよぉ! 大好きなんよぉ!  


泣きながらあずみ姉ちゃんにしがみつく春夫ちゃん。 危険を察した他の常連客が、あずみ姉ちゃんから春夫ちゃんを力ずくで引き離し店の外へ。春夫ちゃんは皆からボコボコにされています。 呆然としていたあずみ姉ちゃんは慌てて春夫ちゃんの所へ。


あずみ姉ちゃん     殴らんといて! お願いやから春夫ちゃんを殴らんといて!


鼻血の流している春夫ちゃんに向かって、泣きながら何度も何度も

「ごめんね春夫ちゃん」「かんにんやで春夫ちゃん」

と、謝り続けるあずみ姉ちゃん。 鼻血を流したままの春夫ちゃんは、何も言わず静かに立ち去ります。

今までクリスマスのバカ騒ぎで盛り上がっていた店内はお通夜のようなしらけよう。 ただただプレスリー《ブルークリスマス》だけが鳴り響いていたのです。

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バイト終わり、アパートへの帰り道、 今日一日の常連客それぞれのクリスマスの出来事を思い浮かべながら、それぞれがもって生まれた運命や宿命などというものをボヤ―ッと考えながら歩いていると《世の中は不公平》というワードが頭から離れなくなり、意味もなく悔しくて涙が零れ落ちます。


気が付くと知らないうちに、ちらほら粉雪が舞い降りています。 その時ふとあずみ姉ちゃんから教わった話を思い出します。


雪の結晶は人間と同じように一つとして同じものが無い。それぞれが光の屈折率も違うので、本当は一つひとつみんな違う色をしている。真剣に見つめれば、真っ白な雪の中に彩とりどりの結晶を見ることが出来るのだと。


彩とりどりのクリスマス。 


みんな違っているからこそ、みんな素晴らしい!


自分に与えられたすべてのもの(良いも悪いも)は、真剣に見つめれば、彩とりどりに光り輝いています。 ブルークリスマスもホワイトクリスマスも、どんな彩のクリスマスも、 天上から眺めれば、みんな等しく美しいのでしょう。

 

それでは皆さま、良いクリスマスを!

おしまい