芸人《鳥居みゆき》の脳内風景。分裂と躁鬱の水平線上の彼方の、モナドの領域への誘い。

鳥居みゆき

「♪ヒットエンドラ〜ン!」の一発屋芸人だと思ったら大間違い。女芸人は言うに及ばず、すべての芸人の中でも、飛び抜けた発想力と特異な世界観の持ち主。妄想堕天使の溢れんばかりの才能は、芸人の枠を軽ーく飛び越えてしまいます。  

自己破壊型分裂症美形女芸人、鳥居みゆき

《マサコの単独 妄想夢芝居!》のネタで大ブレークした当時からその言葉のセレクトのセンスは抜群で、他の芸人との絡みでは、乗ったり、スカしたり、ズラしたりと、縦横無尽にボケまくって、絡んだ芸人が困惑するシーンをよく見かけました。

今でこそ、才能豊かな女芸人が沢山活躍しておりますが、当時は、鳥居みゆき一人飛び抜けており(友近は別格)、その独特の世界観は、視聴者には理解されないままブームは終わってしまいます。

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初期のひとり芝居型コントはどれもが秀逸で、特に「妄想結婚式」「クレーマー」「腹話術」などは、まさに鳥居ワールド炸裂で、その後も定期的に開催されているソロライヴも、他の女芸人は誰一人追随出来ない独自のもの。

はたして、この人のネタのベースにあるのは何なのか?

小さな頃から読書が大好きで、好きな作家に、安部公房、太宰治、筒井康隆、つげ義春、夢野久作、島田雅彦等を上げています。とても前衛的なのだけれど、鳥居みゆきの世代では、少し古い作家ばかりが並んでいるのです(まともな返答はしないので真に受けてはいけないのでしょうが)。その芸の中で垣間見せる、世間に蔓延する偽善・欺瞞を見抜く洞察力は、この読書歴から育まれた感性なのでしょうか?

そして特筆すべきは、なんと小学三年生にして、宗教家・哲人の《J・クリシュナムルティ》を読破したというのです(例の如く虚実はわかりません)。

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《J・クリシュナムルティ》
アメリカの神秘思想団体・神智学協会の世界教師(救世主)として、インドで見いだされ英才教育をうける。東方の星教団の教祖となり、沢山の崇拝者に囲まれる恵まれた境遇で過ごすのだが、真理の探究は、あくまで個人的なものであり、いかなる権威・教典・教義も受け入れてはならず、個々が自身で学び、自身の道を自身が創造しない限り、真理には到達しえない。団体での真理探究は不可能として、あっさり解散してしまう。

その思想の特徴は、真理(永遠)の到達には、いかなる指導者(クリシュナムルティ自身も含め)にも追随してはならず、自身の心理や内面の動きをただただ観察し見つめる(比較・分別することなく)ことによってのみ、変容が可能となる。

永遠を感じるには(時間)の範疇にあっては不可能で、思考=言葉=時間(過去と未来)であり、思考の範疇では、永遠(真理)を感知し得ないと看破します。 また、探求から覚醒の間(今ある自分とそうありたい自分の間)に時間が介入してはならず、よっていかなる方法論も存在しない。理解即変容だと説きます。

どうですか? 訳分からんでしょう? 身も蓋もないでしょ?
なんせ真理の理解は、いかなるマニュアルも存在しないというのですから…。

僕自身、クリシュナムルティの思想(厳密に言えば思想ですらない)には、大変な影響を受けており、20代後半から今に至るまで、その著書を読みまくった末、何となく理解した様に思うのですが、未だ何の変容も果たしていないので、おそらく理解してはいないのでしょう。

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で、話を鳥居みゆきに戻しますと、

この難解な内容のものを、小学三年生にして理解した(興味を持つだけでも凄い)と言うのです。未だ理解し得ないアホな僕からすると、驚愕なのです。それをふまえてネタの内容や紡ぐ言葉を見てみると、良くわかるのですが、物事を常識や固定概念に捕われず、様々な角度から分別なく見据える、鳥居みゆきの視座の根底に、クリシュナムルティの思想がしっかり根付いており、過去から未来への横流れの時間からの視点ではなく、その刹那の一瞬を何の脈略もなく、 あらゆる角度から切り取ることで、物の本質を剝き出しにします。

その結果の行き着いた先が、予定調和を好まない、鳥居みゆきの独自の芸風が形作られたのでしょう。

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小学生にしてクリシュナムルティを読んでいる子が、同年代の子供達と話があう訳がありません。おそらく皆がバカに見えたことでしょう。そしてその上から見下ろす感じの少女は、皆から敬遠され、疎外され、虐められてゆくのです(断定していますが、あくまで僕の憶測です)。

その結果、空気を読めないふり、アホなふりをしながら、少女の自己防衛の自我形成が始まるのですが(また断定していますが、あくまで僕の憶測です)、アホなふりをしながら世間に対峙すればするほど、増々周りがバカに見えてきて、よりいっそう孤立してゆくという負の無限ループが始まってしまうのです(また また断定していますが、あくまで僕の憶測です)。

で、始末に悪いことに、その美しいモデル体型と美貌を天から授かったばかりに、妬み、ひがみ、嫉みを必要以上にかってしまい、無自覚にそうしている周りの人達のアホさ加減に、若くして、拭いきれない絶望感を味ってしまうのです(もはや、ぼくの妄想か?)。

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世の中に蔓延する、予定調和や偽善・欺瞞の空気感に耐えられなくなった少女は、たまたま寄席で昭和のいる・こいるのステージを見て(本当か?)、 その芸に内包される、不条理(ナンセンス)や、常識破壊をキャッチし、芸の世界に救いを求め、鳥居みゆきは芸人を志します。

芸人で始まった、自己表現パフォーマンスは、いまや、小説、演劇、映画監督、女優と、様々な分野で活躍しており、その才能を存分に発揮しております。

今年で36才となった鳥居みゆき。今後は、どのような芸を僕たちに見せてくれるのでしょうか? 個人的には、演劇的な一人芝居(お笑いに限らず、シリアスなものやホラー等)を作演出・主演で、今現在の鳥居みゆきの世界観をたっぷり見せてほしいのです。

芸人としては、最近は東北のローカルな番組などで活躍しているようですが、もっともっとメジャーな所でその才能を発揮してもらいたい所。期待しております。

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最後に一つ提案です。

これだけ才能豊かな女芸人が揃った今、テレビ局には、2時間位の枠をとって、女芸人特集なんかを企画してもらいたいもの。フジテレビなんかは、どうせ何をやってもダメなのだから、《ガチンコ!女芸人ネタ祭り》なんかやればいいのに。

そのときの出演芸人は、鳥居みゆき、友近、Aマッソ、Drハインリッ ヒ、柳原可奈子、日本エレキテル連合、紺野ぶるま、ハリセンボンで、是非お願い致します(誰に言っとるんだ?)。

おしまい