シルビイは遠い昔に銀河の彼方へ帰ってしまったけれど、今一度、星のお姫様が現れて、古今東西、日本のアイドル総出演の、全編ラヴ&ピースな『スカスカ・ラヴコメディミュージカル映画』を作ってくれることを強く切望するのです。
《ザ・タイガース 世界はボクらを待っている》は、ザ・タイガース全盛期の1968年封切りの映画で、いわゆる日本のアイドル映画としては、はじめてに近いものだったのでしょう。
内容はスカスカなSFファンタジー音楽劇なのですが、ジュリーはもちろんのこと、なんと、今をときめく超演技派俳優、岸部一徳の銀幕デビュー作なのです(やめてーっ、言わないであげてーっ!)。
で、この映画に関する思い出話を少し。
僕が幼い頃の我が家には、強烈に沢田研二な母親が一人おりまして、普通の母親から強烈に沢田研二な母親になった瞬間のシーンが、今でも強く脳裏に焼き付いているのです。
高校生の姉が学校から帰って来て、何事か母親にねだっております。狭い我が家(子供部屋なんて物はありません)、聴きたくなくても聴こえてくる、母と娘の会話。
姉 今度、小倉にブルーコメッツ(当時大人気のグループ、姉はボーカル・井上大輔のファン)が来るんよぉ、見にいかしちゃらん?
母 なんがブルーコメッツね、つまらん! そんなん行ったら学校停学になる(当時は本当にそんな時代)やろ、ダメに決っとる!
姉 絶対ダメ?
母 絶対ダメ!
僕の心の声 そらそうやろね、高校生が行ける訳ないやん。
厳格な母親としては、至極真っ当な返答。
姉 あと、タイガースも来るんよ、友達がファンやけ一緒に行こうち誘われたんやけど…。
僕の心の声 だから、行けんって!
母 え? タイガースが来ると?
姉 どっちかっちゅうと、タイガースのほうが学校から禁止されとるんよね。
僕の心の声 なら、余計ダメやん!
母 (沈思黙考の末)あんた、タイガースのファンになり(キッパリ)。
僕の心の声 え?
姉 何で?
母 タイガースやったら連れて行っちゃる。
僕の心の声 なんでぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!
姉 うそぉ!
母 本当。だけ、ジュリーのファンになりなさい(再びキッパリ)。
僕の心の声 なりなさいって…。
姉 わかった、そしたら私ジュリーのファンになる。
僕の心の声 ウェーーーーーーーーーーッ! なんが「そしたら私ジュリーのファンになる」かぁーーっ! おかしいやろ!姉ちゃんの井上大輔命はそんなもんなんか? それでいいとかーーーーっ! そんで、ブルーコメッツがダメで、なんでタイガースがいいわけ? ねぇ、なんの根拠があっていいわけぇーっ!その根拠を教えろーーーーーっ!
僕の心の声が、今にも口から出そうになったとき、既に二人は楽しそうにコンサートチケット購入の算段をはじめています。
母が母なら子も子、聞きしに勝るバカ親子。この日を境に、子供をダシに使った母親のジュリー狂が、加速度的に進んで行くのであります。
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そんなある日、何もすることが無く、一人で「帰って来たヨッパライ」の歌真似の練習をしているところ、母親が話しかけてきます。
母 あんた、そんなアホなことしとらんで、映画観に行かんね
僕 うそぉ? いいと?
母 映画行きたいち、言いよったやろ。
僕 うん。怪獣のガメラ見に行きたい!
母 ガメラやないけど宇宙映画なら連れていっちゃる。
僕 なんそれ? 面白いと?
母 空飛ぶ円盤とか出てくるけ、面白いよ。
僕 なら行く。
数々の母親の悪業を見てきている僕なので、半信半疑ながら家でボヤーとしているよりましだと思い、ついて行くことに。
我が家の財政事情では、映画を観に行くのは盆と正月の二回だけ。特にお正月は、親戚のおじさんが毎年遊びに来てくれ、映画に連れて行ってくれたうえ、子供一人一人に、ジュースと明治の板チョコレートを一枚ずつ買い与えてくれます。
四人きょうだいで、普段は一枚の四等分しか食べられなかった僕らなので、すごく嬉しかったものです。映画は、大怪獣ゴジラシリーズ、加山雄三・若大将シリーズ、植木等・無責任男シリーズと、映画館での印象は、楽しいことばかりでしたが…。
映画館に到着して、その看板を見た途端、厭な予感が的中します。「なんこれ?」と母親の顔を見ると、「なんが? 宇宙映画やろ、円盤も描いとるやん。」と素知らぬ顔。その看板には、ペンキで大きく描かれた、笑顔のタイガースの面々に、《世界はボクらを待っている》とあります。
母は、もうそこそこの歳だったので、一人で観に行くにはバツが悪く、いつも暇を持て余している僕を連れて行ったという訳なのでした。
当時の映画は、2・3本立てが当たり前で、何か他の映画も同時にかかっていたはずなのですが、この映画の印象が強過ぎて全然覚えていません。また、今の様に観客は入れ換え制ではなく、何時でも(映画の上映途中でも)入ってよく、何度見てもよかったのです。
上映途中で館内に入った瞬間に飛び込んで来た映像が、ことのほか美しく、何故か今でも鮮明に覚えているこのシーン。 シルビイ(久美かおり)とジュリーが歌をうたいながら愛を語り、夜の海辺で楽しく踊る場面。 銀河の夜空をバックに薄暗闇のブルーの海辺に浮かび上がる白い洋服を着た二人の踊るシルエット…。
そこに何故か、他のメンバー4人が突然登場!
シルビイとタイガース5人が入り乱れて、フォークダンスの様なヘンテコリンな踊りを足場の悪い石コロだらけの浜辺で踊るのです(なぜだ!)。
その時は、その演出の違和感よりも映像の美しさと、曲のメロディーの美しさの方が強く印象に残っており、曲は《銀河のロマンス》と記憶していたのですが、調べてみると《星のプリンス》なのですね。《銀河のロマンス》のコーラス部、♪シャラララララが大好きだったので、脳内で記憶が入れ替わってしまったのでしょう。
しかし今でも《銀河のロマンス》を聴くと、♪シャラララララのコーラスと共に、あのヘンテコリンな6人のダンスシーンが脳内再生されてしまうのです。
映画そのものは、もうツッコミどころ満載の、スッカスカのラヴコメディなのですが、その時はそれなりに楽しんで観た記憶があります。
あらすじは、地球に遊びに来た、星のお姫様シルビイがジュリーに恋して、自分の星(アンドロメダ)につれて帰ろうとするのですが、地球上のファンの痛切な叫びにビビって、ジュリーを地球に返すという、たったそれだけの、なんともどうでもいいお話。
お話の中で、それぞれのメンバーの追っかけファンがおりまして、それぞれがそのメンバーの奥様と言う架空の設定をして会話をしているシーンが随所に出てくるのですが、そのしょーもない演出と女優陣のコテコテの演技が妙に面白く、なぜかいまだに忘れられません。しかし、この映画の本当に凄いところは、そんな所ではないのです。
なんと、ジュリーが銀幕の中から映画館内の客に向かって叫ぶところなのです!
半ば強引にアンドロメダ星に連れ去られるジュリーを地球に取り戻す為、残りのメンバーと共に《シーサイド・バウンド》を歌ってくれと、「ゴー・バウンド!」の所を皆で歌ってくれと強要するのです!(子供向けの戦隊ショーか!)
これには子供心に「ちょっと、それは… 映画やし…。」と思っていたところ、予想に反して館内いっぱいの女の子達が大声で叫びます。
「ゴー・バウンド!」
「ゴー・バウンド!」
「ゴー・バウンド!」と、ジュリーを連れ戻す為に必死で叫ぶのです!
な、な、なんだ、これは! 新手の新興宗教の集会かっ!
誰かこいつらを止めてくれーっ!
おそるおそる隣の母親を見たところ、さすがに大声は出せないながらも、小さな声で「ゴー・バウンド!」と歌っているのを僕は見逃しませんでした(なぜか、ちょっと切なかった)。
いいんです、いいんです。ファンだけに向けての映画なのだから。そして、ファンタジーなのだから、コメディなのだから、何でもありなのだから。
王女シルビイがそんなに美しくなくても、その許嫁の星の王子様が、三遊亭円楽であっても、宇宙船の円盤が、他の映画の借り物であっても、そんな小さなことは、どうでもいいんです。
そう、ジュリーさえ笑顔で歌ってくれればそれだけで…。
というわけで、いつものように前フリが長くなってしまいましたが、ミサイルが飛び交う今の時代だからこそ、今一度日本発の、アイドルによるラヴ &ピースなスカスカ《ラヴコメディーミュージカル映画》の作成を切望するのです(なんでだ?)。
七面倒くさい内容なんか要りません、スカスカがいいのです。 ラヴ&ピースな曲をアイドルが全身全霊で歌って踊ってくれればそれだけで、いや、それだからこそ、純粋に本物のメッセージが伝わってくるはずなのです。
ジャニーズアイドルであれば、ファレル・ウィリアムスの《Happy 》のような、ただただハッピーな楽曲を、世界にアピールできる日本各地を練り歩きながら延々と2時間、ワンカット長廻し、全力で歌い踊るのです。
もちろんジャニーズJrからオッサンジャニーズアイドルまで総出演で。
AKBグループであれば、《恋するフォーチュンクッキー》を脚本化し、MVのイメージのまま映画化、例えばウディ・アレンの《世界中がアイ・ラヴ ・ユー》のような楽しさで。
もちろんAKBグループ総出演で。
そして出来ることなら、男女問わずプロダクション問わずで、全アイドル総出演の《ラヴコメディーミュージカル映画》の作成を強く強く切望するのです。
連日の猛暑にやられて脳みそが沸騰しており、こんな勝手な妄想の膨らむアホなジジイなのですが、小難しい理屈や理論ではどうにもならない所まで来ている昨今、
ただただハッピーな風を世界に大きく吹かせ、対立概念のすべてを吹き飛ばす所から、何かが始まることを密かに期待して…。
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