《みをつくし料理帖》 料理は、おもてなしの(こころ)の表現だということをあらためて思い起こさせてくれる、心地よいドラマです。

みをつくし料理帖

最高の役者陣、最高の美術・衣装、最高の照明、最高の音楽。そして最高の脚本。このすべての奏でる音が、素晴らしいハーモニーとなってテレビ画面から放たれる時、ひねくれ者の僕でさえ、「良いものを観せて頂きました。」と素直に言えるほど、こころが洗われます。

NHKドラマは、みな丁寧に制作しておりよく観るのですが、僕的な最近の大ヒットは、今年一月に放映された《ちかえもん》でした。江戸時代の文学者、近松門左衛門をベースとした、主演:松尾スズキのフィクション時代劇なのですが、笑いあり涙ありの傑作で、脚本家・藤本有紀が、向田邦子賞を受賞したそうです。

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で、この藤本有紀が脚本を手がけたドラマが、《みをつくし料理帖》なのです(今週土曜日が早くも最終回だそう!ゴメンナサイ)。 原作は、高田郁による時代小説で、全10巻、300万部を売り上げた大ベストセラーなのだそうです(全然知らんかった)。 過去に、テレビ朝日で2度、北川景子の主演で単発ドラマとして放送されたそうです(これも全然知らんかった)。

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黒木華は、映画《小さいおうち》やドラマ《重版出来》等で、大好きな女優さんだったのですが、今回の(澪)役で、よりいっそうファンになりました。

幼い頃、水害でみなしごとなった(澪)は、浪速の老舗料理屋(満天一兆庵)女将(芳)に助けられ奉公人として働くうちに、その天賦の才能を見いだされます。しかし、お店は隣家の出火で焼失してしまい、江戸のお店を任されている息子の(佐兵衛)を頼って,主人(喜兵衛)夫婦と三人で江戸に出ます。

ところが、江戸の店も息子の(佐兵衛)の吉原での散財で潰れており、その心労で主人(喜兵衛)は亡くなってしまいます。その後紆余曲折があり、女将 (芳)と長屋で暮らしながら、料理屋(満天一兆庵)の復興と(佐兵衛)の行方探しを胸に、蕎麦屋「つる家」で料理人として働くことに。

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今回のドラマは、ここから始まります。

毎回、旬の食材を使った一品を軸に物語は進んで行くのですが、その料理が本当においしそうなこと!北川景子主演の方は観ていないので何ともいえませんが、(料理を美味しく感じさせる女性)を計る物差しは、美しさや可愛さではまったく計れず、その女性の持つ心の温かさや、出来る限り美味しく食べてもらいたいと思う、おもてなしのこころのありかたなのでしょう。

その点、黒木華の作る料理は、毎回食べてみたくなる程美味しそうで(照明やカメラの技術も素晴らしい)、やはりこの女優さんは、美貌や若さだけではなく、心情のお芝居の出来る人で、歳を重ねて行く程に味が出てくる人なのでしょう。

また、女将(芳)役の安田成美も良いんです。

このブログの記事でも紹介した、《深夜食堂》で久しぶりに観たのですが、余命幾ばくもないがん患者の役で、ノーメイクに近い状態で年相応の生の顔の表情を見せてくれました。「この人、こんな顔(心情がありありと読める)をする様になったんだぁ」と感心したのです。

やはり女優さんは、何時までもチヤホヤされた若い時のイメージに固執してしまうと、ドラマの中では異常に不自然で、やれる役が狭まり仕事がなくなってしまうのでしょう。美しさも必要でしょうが、年相応に魅力的に老けていく女優さんはすごく好感が持てますね。

https://blog.akiyoshi-zoukei.com/katsu/post-921

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《みをつくし料理帖》に話を戻しますと、このドラマのカツラと着物の着付けが本当に自然なのです。僕は今、江戸末期から明治初期にかけて生活する人々の写真をネットで探し出して、延々と眺めるのを密かな喜びとしているのですが(特に女性や子供が美しい)、その写真の雰囲気が見事に再現されているのです。

普通、時代劇の女性の結った髪は、画一的で隙がない奇麗なカツラなのですが、このドラマは皆、地毛を上手く利用して、ちょっと崩して馴染ませており、生活の中で結った髪に寄せています。着物の着方も生活臭のする物で、リアルなのです。不思議なもので、それが逆になまめかしいく、優しかった時代の日本の美しさが心地よいのです。

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そして何より脚本が素晴らしい!

まだ人と人のこころの通う時代、そのこころの通じ方を丁寧に、そこはかとなく表現する言葉や所作は、久しく感じなかった温もりを味あわせて貰えます。

まだ時代のスピードが、すべての《想い》を振るい落とすほど速くなく、一つひとつの感情をあたため、じっくり反芻するとうとうとした時間が流れていた、江戸時代のこころの有り様を描いてくれます。

面白さの質や種類は様々ですが、スピードとテンポ、展開の速さやキレ、奇想天外な結末ばかりの昨今のドラマにあって、《みをつくし料理帖》は、 なんだかこころに染み渡る様な、老舗の温泉旅館にも似た安らぎを味わえるのです。

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音楽はすべて、クラシック系のサックス奏者、清水靖晃によるもので、これがまたこの時代劇にピッタリなのです。ジャズのサックスとは違って、大変にに美しい音色と、安定したピッチで奏でられるバッハのような旋律は、豊かで耳にやさしい。

この人は他ジャンルとも積極的に交流し、沢山の映画音楽も手がけるなど、マルチな活躍をされている人です。

清水靖晃のアルバムは、20年程前、《CELLO SUITES》を一枚だけ購入したことがあります。大きな石切場での録音と記憶しているのですが、バッハの無伴奏チェロ組曲がサックスの音で、本当に心地よく鳴り響いていました。

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役者、美術・衣装、照明、音楽。そして最高の脚本。このすべての奏でる音が、素晴らしいハーモニーとなって心地よくこころに響き渡る作品は、 そうそうあるものではありません。

超おススメです(といっても次回、最終回なのです、ゴメンナサイ)。

最後に、うちのかみさんによりますと、このドラマの最大の見所は、相手役の森山未來(イラスト右)が超絶カッコいい所だそうです。

おしまい