漫才トリオ《四千頭身》 もうそろそろ来てもいいんじゃねっ。(来てるわっ!)

四千頭身

両サイドにボケ二人。中央には超脱力系のツッコミ小僧。今まで見た事ありそうで見た事の無い新時代の超新星《四千頭身》。もうそろそろブレイクしても良いと思われるのですが…(もう、ブレイクしてるって!)

はい。久々のお笑い芸人の記事。今回は、去年のM-1の予想記事の時少し紹介した漫才トリオ《四千頭身》の登場。 三人とも《ワタナベコメディスクール》22期生で、結成三年目。皆21才のバリバリの若手漫才トリオ。出身地はバラバラで、このスクールで知り合ってトリオを組んだそうなのですが、どこかの田舎の同級生3人が、ダラダラとどうでもよい話をして暇つぶしをしている雰囲気満載なのです。

からす

デビューしたての映像をYouTubeで見ると、この時点でネタとその佇まいはもう既に完成されているのです。 舞台に出て如何に早く観客にそれぞれのキャラクターをおろせるのかが、勝負の芸人あって、デビュー時にそれが出来上がっている芸人さんは非常に珍しい。

新人の芸人さんのほとんどが尖って、ネタで勝負だと意気込んでおり、好きな衣装で舞台に上がっていますが、舞台衣装はキャラクターをおろす意味でけっこう重要な要素だと思うのです。

まずは三人の衣装と、その立ち位置を見てみますと、

それぞれのキャラクター設定は既にしっかりでき上がっており、その衣装を見れば一目瞭然。まずは向かって左にいる蝶ネクタイのお兄ちゃん、都築拓紀。見るからにボケ担当のバカ面。ネタの冒頭にやる意味不明のゴリラのギャグで観客は、あーっ、こいつは天然ボケ系のアホキャラなんだな、と、瞬時に理解します。そして向かって右に立っているお兄ちゃん、石橋遼大。ラフな衣装なんだけど全体的に清潔感があり、ちゃんとネクタイもしています。顔も三人の中では普通でちょっと理屈っぽい、めんどくさい系のボケ担当なのだとわかります。

この二人のネクタイの使い分けがポイントで、そのネクタイの種類でボケの種類がわるのです。おそらく計算しているのでしょうが、誰が決めているのでしょうか?

最後に中央に寂しそうに立っている背の小さなピンクの坊主頭が、後藤拓実。こいつが一番ぼやっとしていて、だらしない。育ちは埼玉らしいのですが、出身地が東北で、なんとなくの訛りがより一層のぬるさを演出。このお兄ちゃんが右へ左へ忙しく、絶妙のゆるーいツッコミを入れながら、このトリオの空気感を作ります。何故かいつも伸びきったピンクのTシャツを着ているのですが、よく見ると両サイドのネクタイも濃いめのピンクなので、漫才トリオ《四千頭身》のチームカラーがピンクなのか?

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とにかく、ツッコミの後藤の薄汚れてのびきったピンクTシャツ(本当は新しいものかもしれませんが、そう見えるのです)がまさに《四千頭身》の漫才のイメージを象徴しており、舞台に登場して何分も経たずに、観客は何となく三人の立ち位置を理解します。僕はネタよりもまず、ここまでの演出をデビュー時から完璧にやっている事に驚愕するのです。ネタや構成の担当は後藤なので、おそらくすべては後藤の仕業だと思われるのですが、間違っていたらゴメンナサイ。

そして肝心のネタ。

まずは《しりとり》

原型から発展型まで何種類かあるようですが、一番最初に作ったネタだそうです。ダウンタウンジャルジャルの漫才ように、名刀でスパッと切ったような鋭さや斬新さは薄いのですが、ボケの角度とそのあしらいかたがピカイチなのです。また、ツッコミの間とワードのセレクトのセンスが抜群で、尚かつ構成力がハンパない!

後藤の声を張らないつぶやくようなツッコミは、東京ダイナマイトハチミツ二郎に、同じ東北人のつぶやきシロー(この人のネタはいつ見てもおもしろい!)を混ぜ込んだような独特のもの。しかしこのキャリアで、この絶妙なツッコミの間はありえません、まさに天才! そしてもう既にベテランの域!

ネタ① 《今現在、目に見えているものしか言っちゃダメしばりの、しりとり》

石橋    今現在、目に見えている物しか言っちゃダメな、しりとりやろうよ。

都築    小腸はだめなの

後藤    なんで臓器から入るの? ダメでしょう、小腸見えてないもの、ねぇ?(石橋に)

石橋    取り出せばOK!

後藤    恐いなぁ……。

都築のボケで秀逸だったのは、

都築    ケツは?

後藤    それもダメでしょう

都築    俺、今出せるよ。

後藤    出しちゃダメだよ、舞台で。

都築    うーん…。 じゃあ、ケツ出す決意! 僕の《ケツ出す決意》は見えるでしょ!

後藤    ケツ出す決意? ケツ出す決意?

このような都築がくだらないボケを繰り返し、それにツッコミながらも、それを上回るつまらないボケで対抗する後藤に、逆につっこむ都築。その合間に、当たり前の答えを繰り返す石橋。その石橋を2〜3度泳がしといて、良いタイミングで「お笑いやってもらっていい?」とつっこむ後藤。最後、超つまらないオチを石橋がやって、逃げるようにはける三人。

トリオならではの漫才。そのキャラクターに沿った三人で重ねてゆく構成力と絶妙な後藤の間。イメージは違うのですが、全盛期のレーッツゴー三匹を彷彿とさせるほど。見た目と矛盾の無いキャラクターで展開されるこのネタは、《説明しりとり》《頭とりゲーム》などのネタに発展してゆくのです。

ネタ② 《大陸》

都築    突然なんだけどさぁ、新しい大陸見つけた事ある?

後藤    (超喰い気味に)あるわけないだろ…、バスコダガマか俺は。

(いきなり、ひどく落ち込む都築)

後藤    ど、どうした?

都築    見つけた事無いと言われた後の、会話の展開を用意してなかったので…。

後藤    普通、大陸なんか見つけたことある人、いるわけないじゃん。

(更に落ち込む都築)

石橋    (訳の解らないオネエキャラで)こうなったら仕方がないわ!

後藤    だれ!

石橋    俺も四千頭身。 と、とりあえず嘘をつけ。そうすれば話は進んでゆくから。

後藤    (気を取り直して) 都築くん。俺、大陸見つけた事あるよ。

都築    (超嬉しそうに)ほんと!マジ!それで何処にあったの、大陸、何処にあったの?

石橋    (後藤の肩を叩きながら入れ智慧) 岩手の左

後藤    秋田じゃん! 岩手の左、秋田じゃん! いけんのこれで?

石橋    いいから言って。

後藤    岩手の左…。

都築    あそこにあったのか! 岩手の左何も無いもんなぁ!

後藤    (石橋に) バカでよかった…。

都築    人居た?

後藤    いる訳無いじゃん。俺が見つけたんだから。

石橋    (後藤の肩を叩きながら入れ智慧)いたって言って。九十九万九千人って言って。

後藤    何の数字なのそれ。

石橋    秋田の人口

後藤    (超喰い気味に)秋田じゃん!

後藤    (気を取り直して都築に向かって)九十九万九千人。

都築    秋田の人口と同じだね!

後藤    (石橋に) バレて来てんじゃん。

都築    その大陸の名前教えて?

石橋    (後藤の方を叩きながら入れ智慧) オータム・ライス・フィールド

後藤    オータム・ライス・フィールド……?

後藤石橋  (同時に声を揃えて) 秋田だな!

その後グダグダあって、いつもの様にくだらないオチで逃げるようにはける三人。

後藤「秋田だな」「秋田じゃん」の何種類かの秋田ツッコミ(?)の間が絶妙。

ネタ③ 《前半に畳みかけるな》 

石橋    突然なんだけどさぁ、ドライブしたいなぁと思って。

後藤    ドライブ?

都築    俺もドライブしたい!

石橋    じゃあ、ここでやっとこう。(後藤に)お前はそこで見てて。

後藤    こんな哀しい事ある?

ここから都築、石橋の怒濤の高速ダブルボケが始まり、それに乗っかって高速のツッコミを展開する後藤。途中二人を後藤が遮って一言。

後藤    前半に畳みかけるな! ありますよ、畳みかけるやつ。でも前半にやる人いないんだよ。

更に違う設定で同じように再度畳みかける都築、石橋。 またしても注意する後藤。 更にコンビニの客と店員の設定でコントを始めるのですが、いっこうに畳みかけない二人。しびれを切らして「普通じゃん」とつっこむ後藤に、「前半に畳かけるなって言うから」と都築。

すかさず「もう終盤!」と後藤。

このネタはとても斬新で、最初に見たときは思わず「やられた〜っ」と、ビックリしたものです。

他にも面白いネタは沢山あり、若手漫才師の中では群を抜いたレベルの高さ。去年のM-1は準決勝止まりだったのですが、今年は是非決勝進出をはたして、もっともっとメジャーな舞台に躍り出ていただきたいものです。三人とも慣れれば、バラエティー対応もいけそうなので、期待大なのです。

最後に、関係ないけど今の《千鳥》の売れかたは異常! つぶされないか心配なのです。実力が伴っているので大丈夫だと思うのですが…。

おしまい